龍に乗る
「うわっ!」
結の泉からルーナの庭に落ちる。次来るであろう衝撃に備えて目をつむるとふわりと優しく体が受けとめられた。少し体が浮き上がる。
「……??」
見ると昨日の月のトランポリンの上に俺は横たわっていた。
「糸を作るときに土をいれて弾性を弱くした月の糸のトランポリンだ。お前たちが落ちるときいつも痛そうだったからな」
ルーナが歩いてくる。
その後ろから他の五人が顔をのぞかせて手を振っていた。
「ありがとう」
お礼を言うとルーナはちょっと頷いた。
「それでルーナ、今日はどこに行くんだ?」
「今日は雨の通りから風の妖精たちのところに行こうと思う」
「ってことは風乗りできるんですかあ?」
このみが嬉しそうに聞く。
「そうだ」
「やったー!」
みんなで喜ぶ。空を飛べるってやっぱり嬉しいものだ。
「まずは雨の通りからだ。外に出るぞ。アルス」
ルーナが呼びかけるとアルスがすぐそばの茂みから飛び出してきた。俺たちもこの前と同じように滑り台で外に出る。
やはり外は活気で満ちていた。昨日の月の都は幾分か静かだったので少し驚く。
ルーナが上を見てきょろきょろしていたので不思議に思った。
「どうしたんだ?ルーナ」
「龍をさがしているんだ」
「龍?」
「雨の通りは水の妖精の住処の水海の都と風の妖精の住処の風の里、どちらにもつながる通りなんだ。龍は水属性の生き物だから帰るときはそこを通る。ここから雨の通りまで距離があるから龍に乗せてもらえば手っ取り早いというわけだ」
アルスが言った。
「え?龍?マジで?乗るの?龍に?」
龍に乗るなんて、中学二年生の俺からしたら厨二心をくすぐるものがあった。
「あ、いた。アーロン!アーロン!」
ルーナが大きな声で叫ぶ。俺も空を見上げるとなるほど、確かに龍が空を飛んでいた。ルーナの声が聞こえたのかぴたりと止まってこちらを見ている。空から威厳のある声が聞こえた。
「ルーナ。近くにある原っぱにむかえ。そこで降りる」
「わかった、ありがとう」
ルーナは手を振ると左方向に走り出した。俺たちもそれに着いていく。
少し走るとすぐ原っぱが見えてきた。そこに、白くて長い身体に青い毛を生やした巨体の龍がいた。
「うわぁぁ!すごい本物だ!」
「でけえ…」
金色の磨き上げられたような立派な角、するどい爪、固そうな白い鱗、深い常盤色の目。
静かに佇んでいるだけなのに美しさを感じる。
その龍がこちらに大きな頭を近づけてきたので思わず後ずさった。
「こやつらか」
「ああ。みんな、こちらは龍のアーロンだ」
「よろしくお願いします」
アーロンは少しの間沈黙した後ルーナに顔を向けた。
「雨の通りに行くんだろう」
「連れて行ってくれるか?」
「いいだろう。乗れ」
アーロンは頭を原っぱに沈めた。
「うわ、本当に乗れるんだ…」
「誰が先頭で乗る?一番背の低い者が前の方がいい。その後ろに私が乗る。一番後ろは一番背の高いものがいいだろう」
うん。なんだか嫌な予感がする。
みんなの視線が俺に集まった。
多分この中で俺とミオが同じ背の高さくらいだが、ミオを先頭に乗らせるのもどうかというわけで…。
「し、失礼します」
俺はアーロンの首の部分にまたがっていた。青い体毛がごわごわしている。
「角にしっかりとつかまるんだ」
ルーナは後ろで俺のお腹にしっかりと腕を巻き付けていた。落ちないようにするためだ。
「うん。わかった…」
結局俺、ルーナ、ミオ、このみ、あきと、アカネ、カナメの順番で乗ることになった。
アーロンの角を握る。めちゃくちゃ硬くて太い。
「乗れたか?」
「は、はい!」
「じゃあ飛ぶ。しっかりつかまっておけ」
そう言ったのが聞こえたかと思うと青い体毛が一斉に逆立った。自分の身体に鳥肌がたつのがわかる。
次の瞬間、何故か身体が垂直になった。
「????」
そのまま空気をびりびりと引き裂いて、垂直にアーロンが空に上がっていく。
一方、俺は必死だった。
「嘘おおおお!落ちる落ちる!?」
「ハルト!角をしっかり握れ!足を胴体に巻き付けて!お前が落ちたらみんな落ちる!」
「そんなああああ?」
とにかく俺は角を握ることだけ考えた。目をぎゅっと瞑る。
風の音が柔らかくなったかと思うとふっと体が水平になった。
「ああー。びっくりした。みんな落ちてない?」
「落ちてないぞー。なんとかな」
後ろからカナメの声が聞こえた。
「良かった……ってたっっっか!!」
アースの景色がかなり下にあった。まるで飛行機から地上を見ているようなかんじだ。
そして飛行機は機内の中だから安全だが、これは落ちようと思えば落ちれるんだということにぞっとする。俺は握る力をますます強くした。
「もっと下で飛ぶこともできるんだが上で飛んだ方が他の生き物が少ないから早く着くんだ。低い方がいいか?」
「あ、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
「見てみて!宮殿がある!」
ミオが言う。あ、ほんとだ。ん…?
「ルーナ。宮殿の後ろに、なんかないか?」
濃い霧のようなものがかかっているけどその奥になにかとてつもなく高くて大きなものがあるのが見えた。
「ああ。あれは神秘の山だ」
「神秘の山?」
「ああ。このアースの頂点にある山。私も詳しくはわからないがとてつもなく不思議で偉大なる力をもつ山…。霧があるのと大きすぎるせいで下からだと気づかないことが多いな。ずっと昔には霧がかかっていなくて頂上にこの山を覆うほど大きな虹がかかっていたらしい」
「そーなんだ…」
そういったところで、雨上がりの森のような匂いが俺の鼻を刺した。




