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アース  作者: 音竹咲夜花
20/33

月の憩い場3

「さ、着いたよ」


「ここ?」


そこには上下左右に張った大きな月の糸の網があった。それぞれ太くて長い杭に糸が頑丈に結ばれてある。その網真ん中に、小学生くらいの月の妖精の子供たちが集まって遊んでいた。


「あ!ノイくん!」


「ルーナだ!久しぶりね」


女の子たちがきゃあきゃあとノイの周りを取り囲む。こちらの世界でもやはりイケメンはモテるのだろうか。ミオがちょっと膨れているのが面白い。


「この子たちは…?」


「あー!人間の世界にいた子たち!あ、全然悪い意味じゃなくてね?」


やはり将来有望そうな顔の子たちが揃っている。おめめがキラキラしてて可愛い。


「左からカナメ、ミオ、このみ、アカネ、あきと、ハルトだ。」


「こんばんは」


「こんばんは!」


この中で一番年長そうな男の子と女の子が手を挙げた。小学四年生といったところだろうか。


「俺、カマル。よろしく」


アマルの子供だろうか。目元が似ている気がする。ノイと同じ月色の髪のイケメンだ。


「私はセレーネよ。よろしくね」


少しおませな女の子が胸元に手をあてていった。少しカールしている黒髪をミオのように二つに結んでいる。


「みんな、仲良くするのよー」


セレーネがそう言うと後ろの子供たちは「はーい!」と元気よく返事をした。


「それでノイ!今日はトランポリンをしに来たのよね?」


セレーネは嬉しそうにノイの腕に抱き着く。


「なっ…」


ミオの方をおそるおそる振り向くと、さっきよりも頬を膨らませていた。思わず吹き出しそうになるのをこらえた。


「うん。カマル、セレーネ。やり方を教えてくれるかい?」


「ノイの頼みならもちろん!」


あーあ。こりゃ完全にこの子もノイのこと好きだな。しかもぐいぐい系だ。横を見るとミオを除いたみんなも苦笑いしている。


「まず、ここにみんなで立つんだ」


カマルや他の子供たちが網トランポリンの中央に集まっていた。俺たちも端の網をそこまで歩いていく。網目が小さかったので足をとられることはなかった。

全員が集まる。


「カマルがいっせのーせっていう合図をするから。そしたらみんなで飛んで。あ、手をつないだ方がいいかもね。飛んだら離すのよ」


セレーネが我先にとノイの手をとる。すると、ノイの左隣にいたアカネがさっと身を引きミオの腕をひいて自分の立ち位置と交換した。

俺はというとにやにやしながらそちらの方を見つめる。人のそういうのを観察するのって楽しい。

ミオは「ええー!?」という顔をしてアカネの方を見た。アカネが目を逸らす。


「?ミオちゃん?」


ノイが不思議そうな顔をしているのに慌てたミオが「な、な、なんでもない!」と言って手をつないで真っ赤になっている。それをセレーネが怪しむように見つめていた。


「二つ結びの三角関係ができているな」


カナメが呟いた。


「行くよー!」


カマルが大声で行った。膝に力をいれる。


「いっせーのーせ!」


思いっきり飛んで手を離した瞬間、身体がありえないほど浮き上がった。

満月が一層近くなる。

その大きさに圧倒されていると、みるみると月が離れていった。

風を切りながら自分の身体が落ちていく。


ボフン!!!


トランポリンに落ちたかと思えば、さっきよりも高く身体が打ち上げられる。また落ちていく。上がる、落ちる、上がる、落ちる。


「あれ?これどうやったら止まるんだ?」


そう気づいたのはそれを十回繰り返したときだった。


「ねえ!きゃぁぁぁ!これ!いやぁぁぁ!どうやって!止まるの!?」


ミオが大きくバウンドしながら叫ぶ。


「落ちたとき、指で網目を掴むんだ。月の糸は弾性が強いから、落ちたときの衝撃でまた弾んでしまうけど網目を掴んだら大丈夫だ」


ルーナがトランポリンの外から声をかけた。月の妖精の子供たちは側で笑い転げている。

俺は次浮いたとき、空中で身体の向きをかえた。落ちていくときに手を構える。

網目網目…今だ!

思いっきり網目を掴む。ちょうど指の細さ程度だったので、なんとか身体を止めることができた。そのまま這いつくばって網の外側に向かう。


「ああーダメでした」


このみが失敗したようで、相変わらずボヨンボヨン跳ねつづけていた。

その反動で俺も跳ねそうになるのを、必死に網目を掴んで自分の身体を止めた。


やっとの思いで網の外に出ることができた。


「あー。大変だった」


「このみちゃん大丈夫かな」


ミオが心配そうにトランポリンの方を見つめる。


「助けてあげたほうがいいんじゃない?ノイ兄ちゃん。あの子自分じゃ降りられなさそうだよ」


カマルが言う。


「そうだね」


ノイは青白い光を出して浮き上がると華麗にこのみの元に向かった。両肩をしっかりとつかんで地面に戻ってくる。


「すみません…」


「大丈夫?」


ノイとカナメがぐったりしているこのみの服の汚れをはらってあげている。イケメンはやることもイケメンなんだなということがよくわかる構図だった。俺はといえばトランポリンの影響で足元がふらついていてしゃがみこんでいた。情けない。


「はい。月の水持ってきたよ。飲める?ごめん。俺が最初につかまり方を説明すればよかったね」


カマルとセレーネがコップを俺たちに渡してくれた。ほんの少しだけ水が入っている。月光にあてると綺麗にきらきらと光った。

ミオがこのみの口元に水を流し込んでいる。終わるとミオは自分の分を飲んだ。

俺もそのままこくこくと飲み干す。冷たいものが喉をするりと滑り落ちた。


「!!!!」


その瞬間、自分の身体に何か不思議なものがはしった。

何かいいものが、体中にみなぎっていく気がする。

初めての感覚だった。


驚いてルーナの方を見る。


「それが月の水の効力だ。どうだ?実は、ジャックのつるの時飲ませたものも月の水を薄めたものだったんだ」


「すげえ」


「元気になりました。ありがとうございます」


元気どころか体中に力が溢れている。自然のパワー的なものを。


「じゃあ、みんなが元気になったところでもうちょっと遊ぼうか。あそこまで高くなると危ないかもしれないから、トランポリンの張りを緩めるね。さ、みんな手伝って」




それからまた一時間ほどそこで遊んだ。

月の水の力のおかげなのか全く疲れないし、ずっと跳ぶことができた。カナメと空中で一回転なんかもできるようになった。一回転すると月の妖精の子供たちは手をたたいて喜んでくれた。

アカネはこのみに跳び方を色々と指導していた。アカネも運動神経がいいみたいで、跳びながらアクロバットのような動きをしている。昔新体操をやっていたようだ。

あきとはというとトランポリンをやらずに、ルーナに何か熱心に聞いていた。

ミオなんかは跳び方が悪いのか、何度も網の外に落ちそうになっていたけどノイが丁寧にエスコートしてくれていた。セレーネがたびたび邪魔しているのが面白かった。


「そろそろ薬の様子を見に行こう。うまくいっていたら完成しているはず」


ノイが言った。


月の憩い場の出口まで、また子供たちが見送ってくれた。ルーナがアルスたちを呼んだところでまたエルア様が現れた。


「おお、帰るのか」


「はい。今日はどうもありがとうございました」


「またいつでも来るがよい。会えたらいいの」


それからちょっと声を潜めてルーナには聞こえないように言った。


「これからも、ルーナと仲良くしてやってくれ。(わらわ)からの願いじゃ」


俺たちが頷くと、エルア様は今までで一番いい笑顔を見せた。

そうして一人ずつ、俺たちの頭を撫でた。撫でられたときは思わず目をつむってしまったけど。


「じゃあね!」


「またね!」


ここから作業場への道のりも行きと同じ方法で行くようだ。エルア様、アマル、カマルとセレーネ、子供たちに手を振ると俺はまたヌエバに乗って作業場へ戻っていった。


「楽しかったか」


「え?」


ヌエバが怖い声でそんなことを聞くものだから驚いた。「うん」と答えると「そうか」とだけ言った。

それだけでなぜかこの怖い狼に少しだけ親近感がわいた。それ以降会話はなかったけど、案外ヌエバに乗ってよかったかもしれないな、とまで思い始めていた。




作業場に着いた。

あきとはナヤとすっかり仲良くなったようで別れを惜しんでいた。


「ばいばい!また絶対会おうね!」


「ああ、今日はありがとう」


俺はまたヌエバに丁寧にお礼を言う。ヌエバは少し尻尾を振ると、狼仲間たちと帰っていった。


そして肝心の薬だ。

みんなでおそるおそる、すり鉢を覗き込んでみる。


「あ!」


そこにはちゃんと紫色の液体ができていた。その液体からは、夜の匂いがした。


「成功だ」


「やったー!」


ルーナの言葉でみんなして喜んだ。


「これに入れて持って帰りなよ」


ノイが懐からアンプルのようなものを出した。


「え?いいの?」


「もちろん。君たちが作ったからね。あ、でもこの薬を誰かに渡したりしてはいけないよ?君たちだけが使うこと。約束ね」


「うん!」


紫色の液体が入ったアンプルをしっかりとズボンのポケットに入れた。


「じゃあ、そろそろ帰らないとね」


「明日も来るか?」


そうだ。明日物置の掃除をする約束を母さんとしたんだった。


「あ、俺ちょっとだけ遅れちゃうかも。でもなるべく間に合うようにするね」


「わかった」


他のみんなも来られるようだ。明日もアースに行けるんだなと思うと胸が弾んだ。

そのまま近くにあった結の泉にみんなで移動した。


「じゃあ、今日もありがとう!」


「また明日―」


泉に手を伸ばして水が触れた、と思ったらアカネがミオの背中をポンと押したのが見えた。なんだ?

ミオがノイに近づいて何か囁いている。

あ、最後まで見たい。



と思ったところで視界が反転し、俺は自分が泉の中にいることに気が付いた。











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