月の憩い場
諸事情により、長らく小説が更新できていませんでした。あらかじめ書けていなくて本当に申し訳ございませんでした!
「あ!無事着いたんだね!」
瓶を無事配り終えたのか作業場にいた月の妖精たちが戻ってきた。手を振りながら地面に着地する。俺たちの隣にエルア様がいるのを見るとあわてて膝をついた。
「かしこまらなくてよいというのに」
「滅相もございません」
「ん?その壷に入っているものはなんじゃ?」
エルア様がかがんでその壷を手にとった。
「はい。つきみ酒にございます」
「良い!飲んでもいいかの?今日の満月にはぴったりじゃ」
エルア様が心底嬉しそうにその壷を手にとった。
「つきみ酒?」
「アースの実を月光で照らして新たに作り出した月の実で作ったお酒のことだよ。月の水同様、貴重なものでエルア様の大好物。妖力の源にもなるんだ」
ノイが丁寧に説明してくれた。
「あそこの下でみなで飲もう」
エルア様が上に穴の開いた奇妙な大きいガゼボを指し示した。
お酒は飲めないので俺たちは作業場にいた月の妖精の一人、アマルが月の茶を注いでくれた。
暖かくてほんのりと甘い。とても美味しい。
エルア様は月の妖精や、他の生き物たちと楽しそうに話しながらお酒を飲んでいた。
「なあ」
カナメが湯気の立っているコップを持ちながら言った。
「月の妖精たちってみんな美男美女だよな」
「思った」
ミオがうなずく。そして横にいるノイをちらちらと見た。わかりやすいなお前。
「月光には治癒の他にも様々な効力があるからそのおかげかもしれない」
ルーナが言うとさっきの作業場にいた別の男の妖精が割り込んできた。
「でもエルア様やノイは別格だよな。エルア様はとてもお若いし」
「お若い?二十歳とかじゃないの?」
俺が聞くとルーナが声を潜めて答えた。
「確かもう八十はとうに越しているはずだ。あのアーテン様とご兄弟の関係だしな」
「「「「ええええええ!?八十!?」」」」
「しー!」
ノイがあわてて指を口にあてる。
「かあさ…エルア様にそれを言ったらダメだからね?絶対に!」
「あ、うん。わかった!」
エルア様の方をちらりと見てみるとこちらの話は聞こえていなかったようで、相変わらず楽しそうだ。
よかったー。
「そういえば、ずっと聞きたかったことがあるんだけどさ」
突然、アカネがルーナに向かって聞いた。
「ここ…アースってどこにあるの?一応地球の中にあるの?アーテン様が人間界の自然の奥深くとつながっているとかおっしゃってたけど…」
「そうだな。説明が難しいな」
ルーナが考え込むように顎に手をあてた。
「前も言ったが、アースは地球の核なんだ。地球の内部に存在している。だから場所としては地球の内部の中心にあるという感じだな」
「まあ、この世界自体超常現象の大集合みたいなところだからな。科学的に説明するのはどう考えたって無理だ。普通の人にここのことを話したって頭がおかしくなったとしか思われないだろう」
あきとが冷静に言った。
「まあ、そもそも普通の人間はここに来ることができないしね」
アマルが茶がなくなったコップにまた新たに注いでくれる。ほわほわとした湯気がたった。
「でも、妖精さんや不思議な生き物さんたちはアーテン様の白い玉と結の泉を使えば人間側の世界に来られるんですよね?その時に姿とかは見えないんですか?ドラゴンとか現れたら大騒ぎになっちゃうと思うんですけど…」
「基本的には見えないよ。でも自ら姿を現したいって思ったら見えるようになるらしい。あと人間たちの世界にいるうちにアースの存在を忘れてしまうと、完全に姿が見えるようになる。でもそうじゃない場合もあるらしいから、本当に詳しいことはわからないな」
「僕も人間の家にいたずらしにいって間違って姿を現してしまったことがあったよ。あのときは本当に危なかった」
「私もあったわ。人間たちに追いかけられて洞窟に逃げたの。コウモリたちから不審がられたけどね」
いつの間にか近くにいた小人と小ドラゴンが言った。
「じゃあ龍とかグリフィンとか小人とか架空生物の伝説は嘘じゃなかったのか」
「というかこっちの世界の超常現象って全部アース経由じゃないのか」
「確かに」
「はははっ!」
みんなが笑う。どうやら俺たちはまた、この世界の秘密を一つ知ってしまったようだ。
「妾はこれから患者たちの見回りと治療に行くが、お主らはどうする?」
エルア様がこちらに問う。
「私はエルア様に着いていきます」
ルーナが言うとあきとが片手をあげた。
「俺も着いていっていいか。興味があるんだ」
「ああ。いいぞ」
「私、あのハンモックで寝てみたいです!」
このみが上にぶら下がっている無数のハンモック指した。
「うん。俺ももう一回寝たい」
「あー気持ちいいー」
「さいこーだなあ」
俺たちは上につるされた月の糸のハンモックにうだうだと寝転んでいた。ふかふかのベッドより柔らかいそれは寝心地も最高だ。夜空も綺麗だし。これを無料で寝られていることに感動している。
「このまま眠りそう…」
アカネの声がもう半分寝ていた。眠気は伝染するものなのだろうか。なんだか俺も瞼が重くなってくる。
「俺もちょっと寝るかも。おやすみ」
俺は仰向けになってそっと目を閉じた。
もやのようなものがかかっている。
そのせいか、周りの景色がよく見えなかった。
少しだけ、ほんの少しだけ緑色の木々と大きな建物のようなものが見える。
誰もいない。ここはどこだろう。
どうやら俺はそこに座っているようだ。動こうとしたけれど身体がいうことを聞かなかった。
仕方がないのでそこに座ったままでいた。
暇だな。誰か来ないかな。俺を見つけてほしい。
しばらくすると、小さな誰かの足音が聞こえてきた。驚いたような声が聞こえる。
視界が狭いせいで、最初は見えなかったものの段々とその足が見えてくる。
そして、その足の主は俺の前まで来るとしゃがんだ。
何かを喋っているけど、よく聞こえない。
もやのせいでその正体の顔を見ることもできない。でも、多分人間だ。
その人は俺の頭を壊れ物を扱うかのように優しく、優しく撫でてくれた。
そのとき、俺は初めて自分が泣いていることに気が付いた。




