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アース  作者: 音竹咲夜花
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月野都

「早い早い早い早いって!俺死ぬ!」


「口を開けるな。舌を噛むぞ」


 ヌエバは思ったよりも速いスピードで走り出した。耳元で風が唸っている。俺は振り落とされないように必死で手をヌエバの体に巻き付け、頭をピタリと胴体にくっつけていた。

左隣を見てみるとあきとが涼しい顔で走っていた。多分スピードは俺より速いのに。

右隣のカナメだってこのみが落ちないように気を付けながら普通に乗っている。同じ男としてとても情けない。

あー。もう落ちなければなんでもいいや。

俺は頭をヌエバの胴体に着けたまま、周りの景色に目を向けることにした。


さっきルーナの家から出てきた場所はもう通り過ぎて、月野都に突入していた。

やはり月の妖精の家がたくさんある。でもそれだけではなくて何か屋台らしきものがあったり、カンテラが増えていたりと都っぽいところもある。時々、日本の平安時代のような建物もあって驚いた。

物や生き物すべてが月の光で淡く輝いている。


「綺麗だな」


思わず声にだすと、ヌエバが鼻を鳴らした。

道が草ではなく、コンクリートのようなものに変わってから生き物が増えてきた。大量にぶら下げられた月の糸のハンモックも見えてくる。


「月の憩い場はもうすぐだ」


ルーナの声が聞こえた。

それからすぐ、銀色の大きなトピアリーが見えてきた。その手前でヌエバや他の狼たちが足を止めた。奥に大きな大きなガゼボが見える。その下に、アーテン様の中庭で見たのと同じように様々な生き物がいた。


「ここは君たちの世界で言う病院のようなものでもあるんだ。怪我や病気をした生き物たちはみんなここに来て体を癒していく。もちろん月属性の生き物やそうでないものたちもね。みんな戻るころには体が全快になっているんだ」


ノイたちが追いついたようだ。ミオを丁寧に地面に下ろしながらノイが説明してくれた。


「月属性って、アルスとかのことを言うのか?」


あきとが聞くと、ルーナがうなずいた。


「アースの生き物は基本、どの場所でも暮らすことができる。例えばあの魚」


ルーナが示す方を見ると、確かに。群れになった魚たちが空中を泳いでいた。


「お前たちの世界では魚は空中では生きられないだろう。でもここでは生きられる。その逆も同じなんだ。でも、どの生き物も属性というものがあるんだ」


ルーナはアルスを優しく撫でる。


「アルスたちはムーン・ウルフという月属性の生き物だ。額に三日月の印があるだろう」


「これは属性の印なんだ!ルーナもノイも、私たちも月の属性の生き物にはみーんな体に三日月のマークがあるんだよ!」


ナヤが誇らしげに三日月のマークを見せてくれた。月光に反射してピカリと光った。


「とりあえず、中に入ってみなよ。他の生き物と交流するのもよし。ハンモックで寝るのもよし。奥に遊ぶところとかもあるからさ」


ノイが言った。


そういえばミオはどうなったんだろう、と思って見ると案の定またカッチカチに固まっていた。でもめちゃくちゃ顔が嬉しそうだ。よかったね。


「えっと、ヌエバさん。ありがとうございます」


「…ああ」


お礼を言うとヌエバはそっけなくだが返事はしてくれた。嫌われてはいないのか?と思って少しほっとする。


「じゃあ、私たちはまた遊びに行ってくる。戻るときは呼んでくれ」


「わかった。ありがとう」


「ありがとう」


「ありがとうございます!」


アルスたちが憩い場の入口から出ていく。


「さあて。どうしようか。どこから行く?」


「うーん」


考えこんでいた時、後方から何か光が差した。


「え?なんだ?」


何事かと思い振り向くとなぜかルーナとノイがひざまずいていた。その他周りの生き物もみなそうしている。何事かわからなかったがとりあえず俺たちもひざまずく。隙間からその正体を確認した。


左右にたったトピアリーの真ん中に天女のような妖精が立っていた。


「ひざまずかなくてもよい。苦しゅうない」


天女はそういって微笑むと優雅にこちらに近寄ってきた。ドレスのような、十二単のような不思議な着物をまとっている。ルーナとノイの前にしゃがみこんでわしゃわしゃと頭を撫でた。


「せめてお前たちはひざまずかなくてもよかろう」


「いや、一応長だし…」


「まったく…。ルーナ。久しぶりじゃな。元気にしておったか?」


「はい。何事もなく暮らせております」


「そうか。よかった……ん?」


天女はやっとこちらの存在に気が付いたようだ。目を見開いてこちらに歩み寄ってきた。

漆黒の長い髪と大きな目を縁取っている長い睫毛、透き通るような色白の肌。妖艶な唇。

とんでもない美女だ。多分人間の世界に来たら国を滅ぼせるほどの顔面だ。

そんな美女が俺の頬をむぎゅっとつまんでいる。ちょっと痛いが間近の顔がすごすぎてそんなことを考えられない。


「こやつらが人間の世界から来た半妖精か」


「ちょっと母さん」


ノイがとめに入った。


「ん?母さん?」


「うん。月の妖精の長のエルア様。俺とルーナの母だ」


「あー……」


だからノイやルーナがこんな美人になったのか。三つの顔が並ぶと破壊力がすごい。

エルア様は少し眉を吊り上げたが、またにっこりと笑って俺たちの頭を交互に撫でた。


「ルーナと遊んでくれているようじゃの。ありがとうな」


「あ、いえ…」


頭を撫でられていると、エルア様からは優しい月の光のようなものを感じた。これも月の妖精の妖力なのだろうか。

エルア様は俺たちの頭から手を離すと声を張り上げた。


「みなも思う存分体を癒していってくれ。ここは憩いの場じゃ。いつでも来ていいからの」


生き物たちから感謝の声が溢れた。


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