道のり
「あ、陽杜。明日、ちょっとあなたに頼みたいことがあるんだけど」
「ん?うん。なーに?」
「おばあちゃんの家の倉庫の整理を手伝ってほしいのよ。あまりにも物が多くてね?母さん一人じゃ手に終えないから」
「うん、いいよ。明日のいつからやる?」
「別にいつでもいいけど…」
「じゃあ朝一番からでいい?」
「わかった。母さん今日もおばあちゃん連れて病院行ってくるから。陽杜は?今日も遊びに行くの?昼ご飯は?」
「うん。そのつもり。昼ご飯は平気」
「なんども言うけど、危ない場所には行っちゃダメよ。本当にやめてね?」
「わかってるって」
母さんは過保護だなあと思いつつも朝食を食べ終わる。食器を台所に下げるといつものペンダントと白い玉を首から下げた。
「陽ちゃん」
おばあちゃんはやはり縁側に座っていた。おだやかな声で呼ばれる。
「今日も行くのね」
「うん」
「いってらっしゃい」
そう言うとおばあちゃんは顔を戻してまた庭を眺めはじめた。俺は妙にその背中が気になったが、どうしてかがわからないのでまた運動靴を履いて外にでた。
「今日は月野都に出掛けようと思う」
「ツキノミヤコ?」
今日はこのみもアカネも来ていて全員揃っていた。今はルーナの庭でくつろいでいる状態だ。
俺はといえば月の糸のハンモックでごろごろしていた。本当に寝心地が良いのだ。寝ていて気持ちいいし。あきとはアルスにもたれ掛かって寝息をたてている。アルスは全然嫌な顔をしていないし、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?
「月野都は前言った月の妖精たちが集まって暮らしているところだ」
「あー。言ってたねえ」
ミオ、このみ、アカネは三人仲良く白いベンチに横並びで座っていた。側には薄く光る藤色の花が咲いていて、良い香りをだしている。
「私の家の通路を通ったらすぐ行ける」
「おーけーおーけー。でもちょっと待って。このハンモック気持ちよすぎて離れらんない」
「月野都に行けばいくらでもあるぞ」
「よし、行こう」
みんなでルーナの家の中に入る。部屋の奥にこの前入らなかったドアがあった。
ルーナが手をかざすとドアが横に開く。奥に暗闇が見えて、ひんやりとした空気が漂っていた。
「階段をずっと降りていくんだ」
カーン
カーン
カーン
階段を降りる度に水っぽい足音がよく響く。階段が終わると今度は平面の長い道がつづいていた。地面が少し湿っぽかったので滑らないように気を付ける。
「昨日は何をしたんですか?」
「昨日は花畑と小人の森に行った」
「小人?」
「うん!それがさあ…」
ミオとルーナがこのみとアカネと楽しそうに話している。なんだか新鮮だな。
「俺たちは仲間外れだな」
カナメが苦笑した。あきとの方を振り向く。
「そういえばあきととはまだ話したことなかったよな」
「え?ああ」
「ええっと、たしか中学三年生?受験は?」
「するよ。英聖高校」
俺は口をあんぐりと開けた。
「英聖!?超名門じゃん!」
「塾とか行ってるのか?」
「行ってない。独学。でも全国テストとかは一位だか…」
「「えええええええ!?」」
思わずカナメとそろって大声を出してしまう。
「全国?一位?え?マジで?」
「すげー。独学で全国一位…」
カナメはそう呟いた後、またさわやかな笑顔を見せた。
「まあそれなら英聖も余裕だな!」
「えっ…あ、ああ。ありがと」
あきとがまた珍しく嬉しそうな表情をした。狼以外でその顔になるのは珍しい。
「え、なになに?全国一位って誰が?」
「あきとが全国テスト一位なんだってさ」
「ええええ?すごいですね!私全然勉強できなくて…」
「私も無理ー。とくに数学とかさあ?そういえばアースは勉強とかないの?」
「べんきょう?べんきょうってなんだ?」
「うーん、知らなかったことを知るために努力すること?とか?」
「べんきょうはよくわからないが生き物の特徴とか習性は覚えているぞ」
「じゃあルーナさんは多分生物が得意ですね!」
みんなでわいわい盛り上がる。
その空間はなぜだかとても心地が良くて、懐かしかった。なんでだろう。初めはそんなこと思わなかったのにな。
そうして歩いていくうちに次々と妖しく光る植物が増えてきた。ルーナの庭にあったものと同じだ。
「着いたぞ」
一番先頭を歩いていたアルスがこちらを振り向いた。しかし、アルスの前には石でできた壁がある。
「ん?行き止まりだけど」
ルーナが一歩前にでて、また手をかざした。すると青白い三日月のマークがはっきりと浮き出てきた。
扉がゆっくりと開いた。
その先には、夜があった。
キンと張り詰めるような透き通った空気。夜の匂い。
藍色の空には立派な満月が輝いている。
アルスは嬉しそうに吠えるとその銀色の毛並みをいっそう輝かせて夜の世界の飛び出していった。
ルーナの銀髪もまた、一層綺麗に光っていた。
「ようこそ。夜の世界、月野都に」




