小人たち
フローラ様は俺とミオを両手で軽々と持ち上げると小人の森に向かって飛んでいく。
フローラ様からは花の良い香りがした。町でよく嗅ぐ香水のような感じではなくて本当の花の香りを凝縮したようなかんじだ。脳が少しくらくらする。
「小人の森ってやっぱり小人がたくさん住んでいるの?」
「そうよお。そりゃもうたくさんいるわ」
「でも踏んじゃったりしないかな、小さいから見えないかも」
「ああ、それなら平気なの。着いたわよ」
下に小さな町のようなものが見えた。小さな道に、小さな湖。赤に白の斑点がついているキノコでできた家以外は意外と普通のように見える。一つだけ、他のものとは比べ物にならないほど大きなキノコの家があった。
「降りましょうか」
フローラ様は俺たちを町の入り口手前の地面に降ろしてくれた。すでに全員がそろっていた。
「やあ、ルーナ。ごきげんようフローラ様」
町から年老いた小人が出てきた。大きさとしては20センチほどだ。
「ごきげんよう!ロイ様」
「お久しぶりです」
「おや、この子たちがおふれの」
ロイ様はにこにこしながらこちらに目を向けた。優しそうな小人だ。
「彼は小人の長老だ」
ルーナが言う。俺たちは丁寧に頭を下げて「よろしくおねがいします」と言った。
「いらっしゃい。今日はたくさん遊んでいくんじゃぞ」
するとロイ様は懐から木の棒のようなものを取り出した。二回縦にふる。
「????」
一瞬何が起こったのかわからなかった。でも俺より全然小さかったはずのロイ様の背が俺よりも高くなっている。
「え?あれ?」
目の前には広い集落が見える。そして後ろにあった木がとんでもなく大きくなっていた。
「小さくなってるー!」
ミオがぴょんぴょん跳び跳ねた。
カナメもあきともルーナもアルスもジャックも、みんな小さくなっている。
「小人たちの安全を守るために、ここに入る前はみんな小さくする妖力をわしがアーテン様から預かっているんじゃ」
ロイ様が言う。
「なるほど」
「とりあえず行くとするかの」
入り口は豪華な花のアーチで出来ていた。
「私がプレゼントしたのよ」
とフローラ様が得意気に言う。
道はクリーム色のコンクリートで覆われて、キノコの家が何軒も見えている。
すごい。おとぎ話でよく見たやつだ。胸が弾む。
もちろん小人もたくさんいた。洗濯物を干しているやつ、屋根を修理しているやつ、走り回る子供。みんなこちらを見かけるとロイ様やフローラ様に声をかけた。ジャックは小人の子供に人気なようで
「ジャック!またつる乗りさせてね!」
と何回も言われている。
「小人は小さい分、体が丈夫なんだ。体力もすごい」
俺が疑問に思っているのを察してルーナが囁いてきた。すごいな。俺はもう二度と乗りたくないよ。
人気といったらルーナとアルスもだった。アルスは「もふもふだー!」と六人ほどの小人の子供にまとわりつかれているし、ルーナは色んな小人からなにかお礼をされている。
小人は俺たちにも友好的だった。キノコの家の窓からこちらに手を振ったり笑いかけたりしてくれる。
そのうち、最初から見えていた大きなキノコの家の前まで来た。前に広い中庭がある。小さなアースの実の木や花壇があった。そこに咲いている花に水をやっている金髪のポニーテールを横に結んだ少女にロイ様が声をかけた。
「ハンナ、客人たちの相手をしてくれないかの」
ハンナという小人の少女が振り向いた。少しきつめの顔をしているがこちらも美少女だ。多分高校生くらいだろう。
「あ?ああ。あの」
ハンナがつかつかとこちらにやってくる。
「あたいは小人のハンナ。よろしくね。」
綺麗なエメラルドのような目をしている。
「ハンナはわしの孫娘じゃ。君たちが気に入りそうな場所に連れて行ってくれるじゃろう。すまんがわしは少し用があるんじゃ。またなにか困ったことがあったら言ってくれ。」
ロイ様はそういうと大きなキノコの家に入ってしまった。用があったのに来てくれたのか。悪いことしちゃったな。ハンナが肩をすくめてこっちを見る。
「えーっと、誰が誰?たしか六人じゃなかった?」
「あと二人は今日は来てないんだ。私の名前はミオ!」
「俺はカナメだ。よろしくな」
「陽杜です。よろしくー」
「あきとだ。よろしく」
「ミオにカナメにハルトにあきとだね。わかった。じゃあさっそく行くか。ジャックとルーナとアルスも来るよね?フローラ様はどうされますか」
「私も行きたいのだけれどあとからでいい?ロイ様に話があるのを思い出して……」
フローラ様が申し訳なさそうに言う。どうしたんだろう、あんなに張り切っていたのに。
「後から必ず行くわ!あそこよね?遊庭よね?」
「はい。そこです」
「よし!すぐ行けるようにするわね」
フローラ様は背中の翅ではばたくといそいでロイ様の後を追った。
「遊庭?」
「小人たちの遊び場所のこと。こっちにあるよ」
ハンナはまたもやキノコの家の奥の道をすたすたと歩きだす。サバサバしてるな。
ミオがハンナの隣に駆け寄って何かしゃべりかけている。こいつのコミュ力には本当に尊敬するよ。
「どうしたジャック。気分でも悪いのか?」
カナメが心配そうに聞いている。少し驚いて振り返るとジャックがなにやらもじもじしている。そしてちらちらとハンナの方を見ている。
心無しか少し顔も赤い。あれ?これは……。
「えーとジャック。勘違いだったらごめんなんだけどさ、ハンナのこと、好きなのか?」
「えっ」
ジャックの顔がみるみるうちに真っ赤になった。図星だ。
俺よりも年下だから可愛く見えてしまう。ジャックは小学五、六年生といったところだろうか。
「まあ、美人だもんな」
「ま、まさかお前!ハンナさんのこと狙ってんのか?」
「しー!声が大きいって。狙ってなんかないよ。会ったばかりだしな」
カナメが苦笑しながら言う。
「でもハンナは小人だろ?生き物の種類が違くても結婚とかできるのか?」
「できるよ。実際、ここにも元々小人じゃなかったけどここ住むためにロイ様に小人にしてもらった奴とかもいるし。ここに暮らしていない他の種族と結婚した小人もいる。他にも妖精とか動物とかアースでは基本どの生き物との結婚も認められているんだ」
「へえ。そうなのか。じゃあ結婚できるといいな。ハンナと」
「う、うん……」
ジャックがそう言ったところでハンナの声が聞こえた。
「着いた。ここが小人の遊庭だよ」




