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きせきとこんぺいとう

作者: 島 一守

 それは、私が小学3生の頃。少し肌寒くなってきた秋も終わり、検査で病気が見つかって、私はしばらくの間入院することになったの。


 それまでは病気なんてしたことなくて、ずっと外で遊んでいるような子だったから、病院の中は退屈で仕方なかった。

それで、お見舞いに来てくれたお母さんや、看護師さんの目を盗んでは、病院中を探検してよく怒られていたの。


 そんなとき、私は彼と出会ったわ。病室で一人、本を読んでいる、同い年の男の子と。

名前はちゃんと聞かなかったんだけど、ユウくんって私は呼んでたわ。


 ユウくんは、ずっとずっと長い間病気で入院していたらしいの。

だから、私がひょっこりと扉から顔を出したときは、すっごく驚いていたそうよ。

なぜって私が聞いたら、学校に行けてないから、お見舞いに来てくれる仲の良い友達はいないんだって。


 それを聞いて、すっごくすっごく寂しいだろうなって私は思ったの。

わたしは、お母さんは毎日来てくれてたし、友達だって来てくれてたもの。

それで友達とうるさくしちゃって、看護師さんに怒られるくらいにね。


 だから、友達がお見舞いに来てくれないって聞いて、私が毎日ユウくんに会いにこようって決めたの。

それを看護師さんに言ったら、少し困った顔をしてたけど、でもいつもみたいに、どこへ行ったかわからなくなるよりはいいって、許してくれたのね。

でもユウくんは、とても大変な病気だから、迷惑をかけちゃだめよとも言われたわ。


 それからは毎日、お昼の間はユウくんの部屋に、遊びに行ってたの。

でもユウくんは静かな子で、いつ行っても本を読んでいたわ。それも分厚くて、文字がいっぱいの本を。



「ねえ、何を読んでるの?」


「これ? これは、神話の本だよ」


「神話?」


「そう。夜、この窓から見える星座の神話。外に出られないから、窓の外に見える星の話を知りたいなって」


「そうなんだ〜。面白い?」


「うん」


「星座って、占いのあれだよね? 私、双子座なの。ユウくんは?」


「ぼくは射手座だよ」


「双子座の話って、もう読んだの?」


「ううん、それはまだ。でも、双子座といえば……」


「双子座がどうしたの?」


「双子座流星群っていうのが、もうすぐ見られるらしいんだ」


「流星群?」


「うん。流れ星がたくさん流れる日があるんだ。その日は、双子座の方向からいっぱい星が流れてくるんだよ」


「すごーい! 私も流れ星見たいな〜。見れるかな?」


「見られると思うよ。この部屋からじゃ、難しいかもしれないけどね」


「部屋からは見られないの?」


「窓は、星空を切り取った額縁がくぶちだから。夏のペルセウス座流星群も、あまりよく見られなかったんだ」


「そっか〜。残念……」


「でも、屋上に登れば見られるんじゃない? 君は見てくるといいよ」


「うーん……」



 見てくるといいなんて言うけど、一人で見たって面白くないと、私はむくれていたの。

でも、ユウくんは一緒に見に行く気がないんだなって思って、私は黙ってた。

それからは、ユウくんが星が好きって知ったから、病院の売店で買った、星の柄の袋に入ったこんぺいとうを持っていくようになったの。



「はい、おみやげ」


「いつもありがとう」



 笑ってユウくんは、数粒のこんぺいとうが入った、小さな袋を受け取ってくれた。

中のこんぺいとうもお星様みたいで、部屋の蛍光灯の光で、キラキラと万華鏡のように輝く粒を眺めている姿が、なんだかおかしくってよく覚えているわ。

でも、そんな彼を見ていると、本物の星を見ればいいのに、なんて思ってしまったの。



「ねえ、ユウくん」


「ん? なに?」


「こっそり抜け出して、流星群? 見にいこっか」


「…………」



 そのときのユウくんの、困った笑顔に私はしまったと思ったわ。

ユウくんは優しいから、どう断ろうかと困らせてしまうことを言ってしまったって。

でもユウくんの返事は、私の考えていたものとは違ったの。



「そうだね、そうしよう。後悔したくないから」


「いいの!?」


「ふふっ……。二人だけの秘密だよ?」


「うんっ! あ、それで、その流星群っていうのは、いつなの?」


「あはは……、知らなかったんだ?」


「えへへ」



 何も知らない思いつきの流星群観測は、それから三日あとのことだったの。

私は夜、こっそり部屋を抜け出してユウくんの部屋に向かったわ。


 実は前もこっそり夜に抜け出したことがあって、看護師さんの見回りがいつ来るとか知ってたのよね。

だからバレない時間に、エレベーターでばったり鉢合わせなんてのもないように、階段でユウくんの部屋まで行ったの。

静かに、ガチャリとドアを開けると、そこにはびっくりした顔のユウくんがいたわ。



「来たよ〜」



 しずかに、小さな声で私だと伝えると、ユウくんはゆっくりとベッドから降りて、こっちに来てくれたの。



「びっくりした?」


「うん。ノックもなかったから」


「だって音立てたら、バレちゃうじゃん」


「ははは、そうだね」



 私と違ってこんなこと初めてだったのか、ユウくんは困り顔で笑ってたわ。

でも、それ以上に楽しみだってことが表情から伝わってきたの。



「それじゃ、行こっか」


「うん」


「静かに、そーっとね?」


「そうだね」



 いそいそと服を着込んで、そっと廊下に出ると、薄暗くて静かで……。

怖いっていう人も居るけど、私は好き。なんだか誰もいない迷路みたいで、楽しいのよね。

ゆっくりと足音を立てず廊下を歩いていくと、階段につながるドアがあるの。


 今まで抜け出してきた経験上、ここが一番緊張するのよね。

病室のドアはそうでもないのだけど、階段のドアは鉄の重いドアなの。

その頃はしらなかったけれど、これって防火扉っていうのね。火事の時、燃え広がらないように仕切る扉でもあるの。

だから重くて、閉める時そのまま手を離すと、勝手にぐいーっと閉まっていって、ガチャン! ってなるのよね。


 だからゆっくり開けるのはともかく、閉める時はそれ以上にゆっくり、ゆっくり、音が立たないように閉めるの。

そんなことなんて知らないユウ君は、私のこと不思議そうに見てたわね。



「ふぅ……。ここまで来れば、あとは階段を登るだけだよ!」


「うん。頑張ろうね」



 そうして意気揚々と登り始めた私たちだったけど、ずっと入院していたユウ君には、屋上まで階段を上がる元気はなかったの。

途中でふぅふぅと、肩をうえしたに動かしながら、息を切らしていたわ。


 私はうっかりしていたと、脱出計画の甘さに困り果てたのよね。

だって、私は元々部屋で本を読むより、外で走り回る方が好きだったんだもの。

だから、ずっと部屋の中で本を読む生活をしていたユウくんが、私と同じように動けるわけじゃないってことに気がつかなかったのよ。



「ユウ君、だいじょうぶ?」


「う、うん……。少し休めば平気」


「そう? ちょっと座ろっか」



 そうやって階段で座って休んでも、全然平気なようには見えなかったわ。

それにこうしている間にも流星群は流れていっちゃうし、もしかすると階段を使う見回りの人がいるかもしれない。

だから私は、やきもきしながらどうしようかと考えていたの。



「ユウ君、こっち」



 それで私は、またあの重い扉を開けて、廊下に出たの。

やっぱり、エレベーターを使うしかないって思ったのね。

でもエレベーターは、ばったり誰かと鉢合わせしちゃうと逃げられないし、一か八かの賭けだったのよ。


 エレベーターの上の矢印を押して待っている間、どうか誰も乗っていませんようにって祈っていたわ。

エレベーターの中の人に見えないよう二人で柱の影に隠れて待っていたのだけど、やってきたエレベーターの扉が静かに開く音を聞いて、そっと顔を出したの。

運のいいことに誰も乗っていなかったわ。私たちは顔を見合わせて、よかったと一安心。

中に入れば、やっと一息つけたのよね。



「誰も乗ってなくてよかったね」


「そうだね。もしかしたら、見えないけど今流れている流れ星が、奇跡を起こしてくれたのかもね」


「えー! だったら違うお願いしたのになー!」


「ふふっ。大丈夫だよ。今日は流星群だもん。屋上に行けば、きっとお願いし放題だよ」


「そっか! そうだよね! 楽しみだな〜!」



 そんな楽しいお話を遮るように、エレベーターは一番上の階より前で止まったの。

まさか行き先の階を押し間違えたのかと思って見てみても、確かにボタンの光っている階は間違ってなかったわ。

だからこれは、誰かが乗ってくるんだって気づいて、二人で顔を見合わせたのよ。



「とっ、とりあえず隠れないと!」


「隠れるってどこへ……」


「えっと、ドアの端っこに!」



 ドアが開く瞬間左右に分かれ、さっとドアの横のボタンがあるところへ体を押し込んで、ぎゅっと二人で縮こまっていたの。

二人でドア分の距離を挟んで向かい合って、ドキドキしながらじっと息を凝らしていたわ。


 でも全然人が乗ってくる感じがしなくて、私はそーっとドアの外を覗き込んだのね。

そしたらそこには看護師さんが居て、手に持っていた書類をまじまじと読みながら、何か書き込んでいたのよ。


 これはチャンスだと思ったわ。

さっと顔を引っ込めて、閉まるボタンを連打したのよ。

「お願い気付かないで!」って心の中で何度も言いながらね。

そしたら、ドアが閉まる瞬間「あっ!」って声が聞こえたんだけど、なんとかドアは閉まってまた動き出したの。

ギリギリ看護師さんが外のボタンを押すよりも、ドアが閉まる方が早かったのね。



「よかった……。なんとかやり過ごせたみたい」


「ははは、危なかったね」


「もう、笑いごとじゃないんだから……。ぷっ、あはは!」


「なんだよ、そっちだって笑ってるじゃないか」


「ごめんごめん、急におかしくなっちゃって」



 二人で縮こまって見合わせた時の、ユウ君のおっかなびっくりの顔を急に思い出して、笑っちゃったのよね。

今でも思い出すとおかしくなっちゃうくらいだもの。


 なんて笑っているうちに、エレベーターは目的地に着いたの。

あとは外の非常階段を上がって、屋上に出るだけ。非常階段の扉のノブはとっても冷たくて、一瞬びくりとしちゃったわ。

そしてそっと扉を開けると、しみるほどに冷たい空気が入ってきて、さらにびっくり。


 もっと厚着してくればよかったなんて思っても、いまさら服を取りにいくことなんてできなかったから、私は意を決して外に出たの。

そしてゆっくりと、ユウ君の様子を確認しながら非常階段を上がると……。



「わあ……。きれい……」



 満天の星空が、私たちを迎えてくれたわ。

すっと澄み渡る深い藍色の空。そのキャンバスに散りばめられた、キラキラと瞬く星々。

さっきまでの寒さなんて忘れて、みとれてしまったの。

そんな私に、ユウ君の声が聞こえてきたわ。



「きれいだね」


「うん……」


「座ろうか」


「そうだね」



 寒い中、二人で寄り添って座る屋上。

空気が冷たい分、隣のユウ君の温度が伝わってくるようで、ちょっとドキドキしたわ。

そんな私のことなんてつゆ知らず、ユウ君は突然空を指差して声を上げたの。



「あっ! 今流れたよ!」


「えっ!? どこどこ!?」


「はは、もう消えちゃった」


「むー、見逃しちゃった……」


「大丈夫、今日はもっとたくさん流れてくるからね」



 そう言って、私たちは空を眺めていたの。

きょろきょろと見回す私に、ユウ君は流れ星を見つけるコツを教えてくれたわ。



「流星群はね、花火が花開く時みたいに、一点から外へ向かうんだ。

 放射点って言うんだけど、その点を中心に、ぼんやりと全体を眺めると良いんだよ」


「そうなんだ。詳しいんだね」


「へへ……。本当は本で読んだだけなんだけどね。実際に見るのは、今日が初めてだよ」


「そっか、私も初めてだよ。いっぱい流れ星見られるといいね」


「そうだね」



 そうして、私たちは時間も寒さも忘れて、流れ星を探したの。



「あっ! 流れた! 今の見た!?」


「うん、長かったね」


「あっ! こっちも! すごいすごい!」


「目が慣れてきたから、たくさん見えるようになってきたね」


「すごいすごい! こんなにいっぱい流れ星が見れるなんて!」


「そうだね。たくさん流れていくね」


「うんっ! こんなにいっぱい見つかるなら、明日もこっそり抜け出しちゃおうかな?」


「どうだろう、明日はこんなに見つけられるかな?」


「えー? 今日こんなに見えるなら、明日も見えるんじゃないのー?」


「流星群は、決まった日にしか見られないんだ」


「そうなの?」



 明日もこうやって、二人で秘密の冒険ができると思ったのにな。

なんてションボリする私に、ユウ君は流星群の説明をしてくれたの。



「うん。流星群はね、元々彗星だったんだよ」


「すいせい?」


「太陽に一番近い惑星の水星じゃなくて、時々太陽に引かれて太陽系へやってくる、大きな氷と岩のかたまり。それが彗星」


「へー。それが流れ星なの?」


「ううん、ちがうよ。彗星自体も近くを通ると見えるけど、流星群とは違うんだ。

 彗星はね、氷のかたまりだから太陽に近づくと、熱くて溶けちゃうんだ」


「それじゃあ、彗星はなくなっちゃうの?」


「太陽に近づいたら、そのままぐるっと太陽の周りを回って、そしてまた太陽系の外へと飛んでいくんだ。

 でもね、溶けながら近づくから、通り道にたくさんのかけらを落としていくんだよ」


「かけら?」


「うん。氷や、岩などが彗星から剥がれて、散らばっていくんだ。

 彗星のかけらが散らばった道に地球が入っていくと、その氷や岩が落ちてくるの。

 それが地面へと落ちるまでに燃えて、流れ星になるんだよ」


「そうなんだ。それじゃあ、私達は彗星が残していったものを見てるんだね」


「そうだね。だからその道を抜けてしまうと、流れ星はあまり見られなくなるんだ」


「そっか、残念だなぁ……」



 まいにちこうやって流れ星が見られれば、いろんな願い事し放題なのになんて、私は思ってたっけ。

小さくついたため息は、白くふわりと空へのぼっていったのが、とても綺麗で……。

残念だけど、またこうして一緒に流れ星を探したいなって思ったの。



「それじゃ、また来年も一緒に流れ星探そうね!」


「…………。そうだね、また来られるといいな……」



 振り向いた先のユウ君の顔が、少し寂しげで……。

なんだか気まずくて、それ以上話しかけられなかったわ。

でも、ユウ君が静かにポツリと呟いたの。



「僕がここにいたことも、流れ星みたいになにかの形で残るのかな……」


「え……?」


「ううん。ごめん、なんでもないよ」


「そう……?」



 本当は聞き返したかったけど、なんだか聞いちゃいけないのかなって。

だってユウ君は、今にも泣きそうになっていたから……。



「今日はありがとう。君のおかげで、たくさん流れ星が見れたよ」


「へへへ……。どういたしまして」


「それじゃ、そろそろ戻ろうか」


「うん……。そうだね」



 こうして、私達の秘密の冒険は終わったの。

その後も、何度も何度もユウ君の部屋には遊びに行って、時々はしゃぎすぎて、看護師さんに怒られてたっけ……。

でも私が退院してしばらくは、週末にしかお見舞いに行けなかったの。


 それで、ある土曜日にいつものようにユウ君のところへ行ったんだけど……。

もうそこには、ユウ君の姿はなかったわ。



「ユウ君は、三日前に亡くなったの……」


「うそ……」



 看護師さんの言葉に、目の前が真っ白になって、そのあとのことはよく覚えていないわ。

ただ呆然と、誰もいなくなった掃除された空のベッドを眺めていたの。

そんな私に、看護師さんは優しく頭を撫でてくれていたわ。



「あのね、ユウ君から預かりものがあるの」



 優しい声と共に渡されたのは、一冊のノート。

表紙には丁寧な文字で、日記と書かれていたわ。

震える手でページをめくると、そこには入院してからのことがずっと、淡々と綺麗だけど無機質な文字で書かれていたの。


 めくっていくと、毎日薬の副作用で苦しかったことや、検査が大変だとか……。

私には見せなかった、辛い入院生活のことが書かれていたの。


 私はそのときひどく後悔したわ。

本当のユウ君は、夜病室を抜け出して星を見に行くような、そんなことができる状態じゃなかったんだって。

そんなことにも気付かなかったなんて、私はなんてバカなんだろうって。


 ポタポタと涙がノートに落ちて、ユウ君の字が滲んでしまって……。

もうこれ以上見られないって、日記帳を看護師さんに返そうとしたの。

でも看護師さんはゆっくりと首を振って、私の代わりにページをめくってくれたのね。



『今日は珍しいお客さんが来てくれた。同い年の女の子。

 入院しているって言ってたけど、どこも悪くないんじゃないかってくらい元気でうらやましかった。

 けどなんだか一緒に居て喋ってると、少し元気を貰えた気がする』



 初めて私がユウ君の部屋へ来た日、私のことをユウ君はこんな風に思ってくれていたんだ。

それから毎日、ユウ君は私と話したことや、一緒に見たテレビのこと、読んでいた本のこと……。いろんなことを日記に書いていたの。


 それまでのページとは全然違う、楽しそうな日記。

そこには丁寧に切り取られた、こんぺいとうの袋の星が飾られていたの。

まるでノート全体が、あの日見た星空みたいで……。



「ユウ君はね、あなたと一緒にいられてとても楽しそうだったわ。

 いつもユウ君を元気づけてくれて、ありがとう」



 私は我慢できなくて、看護師さんに抱きついてわんわんと泣いたわ。

目が真っ赤に腫れて、涙でぐしゃぐしゃになって……。

それでも看護師さんは、私が泣き止むまでずっと頭をなでてくれていたの。



「ユウ君、ずっとあなたと流れ星を見に行くんだって言ってたわ。このノートね、最後の方は流星群の日付でいっぱいなの。

 あなたと一緒に見るなら、どの流星群がいいかって言っててね。とても楽しそうだったわ。

 ユウ君のこと、残念だったけど……。ユウ君のこの日記と一緒に、流れ星を見てあげてほしいの」


「………うん」



 泣き腫らした目をこすりながら、私はユウ君の日記を見返していたわ。

パラパラとめくっていったなかに、絵の描かれたページを見つけたの。

それは、流星群のでき方の図。彗星が通ったあとに、流れ星の種が残される……。



『僕がここにいたことも、流れ星みたいになにかの形で残るのかな……』



 それを見た時、ふとあの時の言葉を思い出したの。

ユウ君はずっと一人で病気と闘ってきた。けどそれは寂しくて、辛くて。

でもきっと誰にも分かってもらえないことなんだって、気弱になっていたのね……。


 ユウ君がここに居たこと、私と出会ったこと。それを何かに残そうと、ユウ君は日記を書いていたんだと思う。

だから私も、なにかできないかって、なにかしたいって思えたの。


 私にできること、私がやるべきこと……。

それはきっと、ユウ君と同じように、病気で苦しんでいる人の助けになること……。


 だから私は看護師になったの。

私は流れ星みたいに、お願い事は叶えてあげられないかもしれない。

けれど誰かを笑顔にするお手伝いは、きっとできると思うから……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 切ないですね。 でも優しい気持ちにさせてくれるお話でした。 少し泣きそう!
[良い点] おさないふたりの日々。一夜のちいさな大冒険。 読み進めながらもこの時間が、この日々が、ずっと続いてくれればいいのにと願ってしまいました。 心のどこかで、おとぎ話のような奇跡はおきないだろう…
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