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転生したら召喚された悪魔だった

転生したら召喚された悪魔だった

作者: ゆるゆる

転生行事の事故案件シリーズ。続編もある予定。よかったら、読んでみてください。

私の人生は、人に語れるほど大したモノでは無かった。

同情を誘えるほど酷くもなければ、羨むほど幸せでもない、平々凡々の大きな波のない一生だ。

強いて言うなら、50歳で主婦、子も無く夫は会社員。死ぬには少しばかり早かったかな、くらいのものだ。まぁ、悔いがないと言うのは嘘になるけど、夫を一人残すには…逆に遅すぎたのではないかと思っている。夫婦二人で共白髪。でなければさっさと死んで再婚させてあげられれば、残りの人生、寂しさも少ない時間で済んだかもしれないのに、何とも中途半端な年で死んでしまった。


  《でもまさか、死んだらこんな事になるとは思わなかった…。》


そう、目の前にはコスプレ厨二病全開の魔女っ子が3人。嬉しそうにこっちを見ている。一人は鼻血垂らして、他は泣いたり腰抜かしたりしてる。

こんなボロボロの廃墟だか洞窟まがいの所で、ふわふわ浮いているような感覚のまま、子供3人を見下ろしていれば、ここが天国でも地獄でもないことは直ぐに理解できたけど、鼻血垂らしてる子供が何言ってるかわからなかった。


「やった!やったぞ!成功した!!高位悪魔の召喚に成功したんだ!!」


何それ、私が悪魔だって言いたいの?どう言う事?私の根性が捻じ曲がってたってこと?私、生前そんな悪どい人間じゃ無かったんだけど、もしかして自分だけがそう思ってたのかな?実際はとんでもない悪人だったのかも、だから悪魔として呼ばれたのかもしれない…。でも、犯罪も犯してないし、そんなに恨まれてた記憶もないし。普通人だったと、思うんだけど…。神様的には私は悪魔相当の罪を犯してたのかしら、最後の審判を受けた記憶はないけど。


  《それにしてもこの子達は何で“悪魔(わたし)“を召喚したのかしら。

  “悪魔“って何させられるの?呪うとか、何か悪い事だろうけど。私にそんな事

  出来るかどうかも怪しいのに大丈夫かしら…。》


「成功したね、タクちゃん!高位悪魔だから首席になれるかも知れないわ。」

「ほ、ほんっとうだね。成功するなんて思ってなかったけど、すごいよタクちゃん!」

「へへ…。やれば出来るんだよ。俺って才能の塊だからな!」


二人の子供に賞賛されながら鼻血を手で拭くタクちゃんて言う子が答えた。

悪意(わたし)”を召喚して三人して喜び合っているから、こっちの事はほったらかしのまま。


  《そう、この子はタクちゃんと言うのね。他の子はなんて言う名前かしら?

  見た感じ小学校高学年位だけど、それに私から話しかけて良いものやら、

  悩むわね。》


何て考えていたら、ワタシの姿は黒い炎で出来た人の様で、ただの炎の塊のようで、私の美的感覚からしたら、凄く、もの凄く変だった。何故なら、悪魔って言ったらもっとこう、獣のような角や牙を持っていたり、人ではない真っ赤な肌や真っ青な肌であったり、下半身は明らかな獣の様であったりと、昔から絵に描かれるようなイメージを持っていたのだけれど、人というには手足もあまりはっきりしていない炎の塊の様だし、目とか口とかだってどこにあるのやら。それなのに私にはソレが私自身だと理解しているし、鏡で見ている訳でもないのに自分の姿形をはっきりと思い浮かべることができる。


  《それにしても、“高位悪魔“って言う程のもの?どちらかと言えば、

  “下っ端悪魔“って感じじゃない? お墓にいそうな人魂みたいな小さいもの

  ではないけど、強いて言うなら、ヒグマサイズの人魂って感じ。

  自分の事とはいえ、サイズは大きくても大した事は出来なさそうに思える。

  自分のこととは言え、出来る事少なそうだし、能力も低いんじゃ

  ないかしら…。他の悪魔を知らないけど、大きさで判断してるんだったら

  残念ながらガッカリさせちゃうわね。》


「とにかく、ハック先生に連絡しなきゃ。召喚成功したって。じゃないと“高位悪魔”さんが帰っちゃう。」

「そ、そうだね。じゃあ、ぼ、僕が合図を送るよ。」

「あぁ、頼むよエド。俺、ちょっと休むわ…。」


あらあら、“悪魔”にさん付けなんて可愛い子ね。エド君はちょっと頼りなさそうだけど、優しそうだわ。タクちゃんは三人の中でリーダーに近い立ち位置かな?女の子の方がしっかりしてそうだけど。

なんて、のほほんと考えてたら。


「うわーっ」

「何?」

「なんだ?」

「間違えて救難信号あげちゃった!」

「「はぁ〜?」」


あらま、やっちゃったのね。優しそうなドジっ子くんだったか。それじゃ、正しい信号を直ぐにあげれば間違いって気づくかもしれないわよ?…何て、わたしの声なんて聞こえてないだろうけど。

そして案の定、お子様達がワタワタしている間にハック先生らしき人が現れた。


「どうした!何があった?」


救難信号で駆けつけたハック先生は、眼鏡をかけた頭良さげな優等生っぽい見た目の割に、言葉遣いは乱暴な感じのある見た目と性格にギャップがあるタイプだ。


「センセ〜、ま、間違えて救難信号あげちゃって、本当は完了の信号の、成功の信号のやつ上げるはずだったんです〜!」

「あ〜、エドか、わかったわかった。召喚魔法を成功させたんだな?間違ってあげた救難信号はマイナス評価だが、召喚成功なら減点しても大した影響はないだろう。ま、召喚ランクによるからわかんないけどな。」


その言葉を聞いて子供達は目を爛々と光らせた。ハックは余程の自信なんだろうと子供達の表情をみて思ったが、召喚陣に囚われているだろう“悪魔(わたし)”を見て、ただじっくりと観察する。


〈あら、そんな風にマジマジと見られると居心地悪いわね。先生って言っても二十歳そこそこの男の子に、こんなに近くで変な目つきで見られるのも、気持ち悪い。〉


「?何か、喋っている?のか?」

「へ?先生、何?」


女の子が聞いた。この子はしっかりした優等生タイプなのか、それとも点数稼ぎが上手い世渡り上手か、教師の側を陣取って小さな呟きさえ聞き取っていた。


「うん?あぁ、この“悪魔“。どうも私たちにはわからない言葉を発している様だったからな。知能が高い“悪魔“の可能性がある。」

「!それって、やっぱり“高位悪魔“なのね?すごいタクちゃん!」


そう大きな声で喜び褒める言葉に単純に気を良くするタクちゃんと呼ばれる男の子は、鼻血を拭き取った後が頬に残っているのも気付かず、ふふんと、得意げに腕を組み仁王立ちしていた。


「…そう、だ、ね…。」


おやおや?今回は流石にタクちゃんに気を取られ過ぎて、ハック先生のこの呟きには気付かなかった見たいね…。先生には私の声が何となく、音として認識されてるのかしら、言葉のように意味があるとは思っているみたいだけど。意思の疎通は難しそう。それに実際この召喚陣が何なのか、移動して良いのか、よくわからない。

危険な感じはしないけど、勝手なことして迷惑かけるのもどうかと思うし、召喚て言うくらいだからワタシとしては消えてなくならない気がするんだけど、“帰っちゃう“とかってエドくんが口走っていたところを考えると、“悪魔“はさっさと帰るべきなのかも?でも、何処に帰るの?ワタシの帰る場所って、何処なんだろう…。


ハック先生は顎に手を当てて考え込んでいたが、小さな丸いガラス玉の様なもので誰かと連絡を取り、生徒の子供たちにこれからどうするのか説明を始めた。

内容からすると、“悪魔(わたし)“の詳細がよくわからない為ランクも特定できないと言う事。低位の悪魔かも知れないがハック先生では判断しきれない事。詳しい教授に判断を仰ぐのでこの“悪魔(わたし)“を召喚したタクリード(タクちゃん)がちゃんと契約できるか、無理なら別の方法で学園に連れ帰るか。魔界に返送もしくは勝手に“悪魔“が帰ってしまうかについては今から来る別の先生にも意見を聞いてみる。と言うことだった。


  《…今までの話からすると、ここから動いても良さそうね。

  …ほんのちょっとだけ移動してみようかな?“魔界“なんて物騒な

  響きの所よりここの方が安全ぽいし。》


悪魔(わたし)“は恐る恐るこの召喚陣から出てみる事にした。地面についているわけでなく、宙に浮いている状態だから少しだけ枠の外に出るつもりでいたら、“悪魔(わたし)“は建物の外に出ていた。


〈おー!何だか凄い移動したみたい?ここ何処かしら?森とボロボロの建物しか見えないけど。〉


意識してボロボロの建物が何か見てみると、透視したかのように建物の中が見える。建物の地下にさっきの子供たちと先生がいる事がわかった。そしてその建物の入り口近くに何かの魔法陣らしきものもある。その魔法陣は転移か何かなんだろう、別の場所と繋がる魔力を感じる。なんでそんな事が自分にわかるのかよくわからないが、まぁ、自分が“悪魔“なのだからきっとわかるのだろうと、半ば種族特性のせいにした。ただ、慌てている感じの地下にいる四人、あ、五人に増えたが、彼らが“悪魔“わたしに敵意がなく、友好的で嫌なことを強要してこないなら暫く一緒にいる事も、この世界や“悪魔(わたし)“自身の事について知る機会もできて、損はなさそうだと考えている。


  《お互いウィンウィンなら、問題ないわね。そこはちゃんと交渉しないと。》


そう心に決めて、地下の彼らがいるところに戻る事にした。自分に何が出来るかわからないけど、“悪魔“なら“悪魔“らしい事はできるだろう、と楽観的な思考は死んでも、いや、“悪魔“になっても変わらないようだ。

地下では、別の教師も合流して召喚した“悪魔“が姿を消した理由を考えているようだった。魔界に帰還したなら召喚陣も消えている筈なのだが残っていることから、この地上にその“悪魔“は存在している、という判断だった。だが、召喚される“悪魔“は本来、召喚者と繋がりができる為召喚者の能力以上の“悪魔“は召喚できない。その上その繋がりのせいで自由に行動はできないはずなのだ。召喚“悪魔“が自由行動できるのは、召喚者が強力な魔力で召喚後死亡した時や、呪禁によって召喚されアイテムなどに繋がりができた場合などによる場合だけなのだと、説明している。


「タクリード。君は呪禁は使用していないだろうね?隠し事は為にならないと心して答えなさい。」

「そ、そんな事絶対してない!です。俺はちゃんと召喚陣に魔力を最大限込めてあの“悪魔“を召喚したんです!」

「私も証人になります。タクちゃ、タクリードくんはちゃんと召喚手順に沿って召喚を成功させました。」

「はい。ぼ、僕も証人になります。」

「そうですね、私も先ほどまでいた“悪魔“を確認しましたが、呪禁は使われてませんでした。呪禁で召喚された“悪魔“は通常の“悪魔“と違いますからね、私でもその判断はできます。」


他の生徒だけでなく同じ教師であるハック先生の証言から、呪禁で召喚されていないと言うことは確定されたが、召喚された“悪魔“の自由行動について原因がわからないのは困ったものだと、新たに呼ばれた教師、ゼスタックはため息をついた。そこにいなくなったはずの召喚した“悪魔“が戻ってきたから、全員が言葉も発する事が出来ず固まっていた。


〈あー、私の言葉がわかるかしら?新しい先生のゼスタックさん?〉


一応他の四人に言葉が通じない事、と言うか、言葉とも認識してもらえてなかったけど、通じないことは確認済み。このゼスタックさんに通じないなら、また考えないといけない、どうやって意思疎通を図るかを。


「?何を話している?言葉の意味は理解できないが、意志が何某かの言語に乗っている事は理解できる。私に何か言っているのだろう?」

〈あぁ…。残念。ハック先生と大して変わらないか。じゃぁ、繋がりができているはずのタクちゃんはどうかな?〉


タクリードを見るが、全く反応していない。もちろん、繋がっているらしい感覚も何もない。正直、何かか何者かに繋がっているような感覚は全くない。つまり、普通に自由だ。


  《これはもしや…。困った状況では?》


ここにきてようやくと言うか、やっと自分の状況が非情に不味い事になっていると、実感したのだった。

今まで、どこか他人事で、夢を見ているような舞台でも見ているような気分でいたのだが、前より少しだけ現実味を感じるようになっていた。ここでとった次の行動は自分自身でも驚いたものだった。


〈ハロー?ボンジュール?えっと…、ニーハオ?オラ、チャオ、アニョハセヨ、グーテンターク、ん〜、後何か覚えてるのあるかなぁ…?〉


そう、何でかワタシは覚えてる言語の“こんにちは“を片っ端から言ってみた。大して覚えてなかったけど、ただ、無駄じゃなかったと思うのは、そのどれかにゼスタック先生が反応していたから。問題はどれかわからないこと。


『言葉がわかるのか?私の言葉の意味がわかるのか?』

〈あなたの話す言葉は何語であっても理解できるけど、私の言葉はわからないのよね?〉

『…わかる言葉で話してくれないか?』

〈あー、そうね。イエス…、ウイ…、ヤァ…、スィ……。〉


ワタシはどれが通じるのかわかるようにゆっくり間を開けて答えた。そして解ったのはドイツ語が通じるようだと言うことだけだった。だからと言ってワタシがドイツ語がペラペラな訳ではなく、誰もが知っている様な挨拶しか知らないのだから、会話が成り立つ訳ではない。

  

  《意味あったかしら、まともに会話にもならないのに…。まぁ、少しでも

  こちらの言い分が伝わればマシなんだけど、ワタシがドイツ語がペラペラ

  だったらねぇ…。

  “悪魔“ならそれぐらい出来ないのかしら?》


なんて事も思ったけど、まさか、こうなるとはね…。

そう、片言だけ会話ができたゼスタック先生とだけ普通に会話が出来る様になった。ワタシは普通に会話してるだけだけどゼスタック先生以外は聞き取れないらしい。それにこの言語が何語かはわからない。ドイツ語に多くの共通点がある言語とだけ理解した。ただ、ゼスタック先生は頭を捻っている。


「なぜ、この言語を話せるのだ?幾つか他の言語も話していたようだが、私には聞き取れないものばかりだった。悪魔の言語は知っているが、それとは全く違うものばかりだったし、今、話が通じる言語は古代北部賢人と呼ばれるドワーフの言語だ。まさか、ドワーフの悪魔なのか?」


何だかブツブツと独り言を言いながら考えをまとめようとしている。だけど大きな勘違いのまま答えを求めても、正解には辿り着かないよね〜。さて、何処まで話すべきか、全員の会話が理解できること?縛りはないから“悪魔(わたし)“は自由だと言う事?“悪魔(わたし)“は人間だった時の記憶を持ち、別の世界から来たって事?“悪魔(わたし)“は悪魔になりたてで何もわからないって事?


  《無理ね、正直になんて言うべきじゃない。同じ人間同士でもそこまで正直に

  話す訳ないのに、ましてワタシは今や召喚された“悪魔“。基本、悪魔って

  言ったら悪者だし、直ぐに討伐なり処分対象かもしれないし。

  会話できるゼスタック先生に暫く付いていても問題なさそう。

  それに情報収集は大事だし。

  これからも生きていくなら…。あれ?生きてるのかな“悪魔”って?》


結局ワタシは、召喚されたものの誰にも縛られていない事だけは伝えた。自分の意に反するなら誰からの命にも従わないだろう事も。多分、一番確認したい事だろう、それによって対応が異なるだろうから。そして彼らと共に学園に向かうことになった。学校なんて何十年ぶりだろうか、“悪魔”になってから初めて緊張しているような気がする。これから先どうなるのかわからないが、それなりに楽しめるように願うばかりだ。


  《ふ、“悪魔”だけどね…》


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