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進路面談

 今日は進路面談の日。

 出欠確認を終えた推川ちゃんは保健室に戻らずに、一限目開始のチャイムが鳴り終わってからもテント内に居た。


「さてさて、それじゃあ進路面談を始めたいんだけど……本当にテントの中でやるの? 成績の話とかもするかもしれないんだけど、テントの中じゃ恥ずかしいよって人は居ない?」


 推川ちゃんは三人に向かって問うが、俺も瑠愛も桜瀬も「大丈夫」と首を縦に振った。逢坂はいつも通り携帯ゲームをしている。


「みんな変わってるわねぇ。普通聞かれるのは恥ずかしいと思うのだけれど……まあいいか。それじゃあ誰から面談していく?」


 首を傾げた推川ちゃん。俺と瑠愛と桜瀬は、三人で顔を合わせる。


「全員一緒でいいんじゃない?」


「ああ、俺も桜瀬に賛成だ」


「私も」


 すぐに答えは決まった。三人が同時に推川ちゃんの方を向くと、彼女は苦笑いをしながら頬をかいた。


「あなた達がいいならいいんだけどね。じゃあ三人一緒に始めようか」


 推川ちゃんに手招きをされて、三人は彼女と向かい合うようにして座った。推川ちゃんは側に置いていたパンフレットや資料を手に取ると、それに視線を落とした。


「じゃあまず、どういう大学を志望するのか聞いて行くわね。一番手は紬ちゃんで」


「アタシはやっぱり文系の大学かなー。あとは家からあんまり遠くない所がいい」


「なるほどね。大学の偏差値的にはどれくらいのところがいい?」


「今の学力で行けるくらいのところかな」


「了解。そうなると……こことかどう?」


 推川ちゃんは資料をパラパラとめくると、とあるページを桜瀬に見せた。

 そこには『鳳桜(ほうおう)大学』という大学が載っていた。キャンパスの写真はとても綺麗で、これが大学だという花々しさまで感じられる。


「鳳桜大学って近くにあるところだよね。アタシの学力でも行けるの?」


「越冬高校の最寄り駅から三駅離れた場所にあるわよ。紬ちゃんの学力なら問題ないと思うわ」


「それで文系なんだよね?」


「文系も理系もあるかな。文系の学部は、文学部と社会学部と教養学部かな」


「んー、その中だったら教養学部かなー」


「鳳桜大学のパンフレット見てみる?」


「見ます見ます!」


「じゃあこれ、好きに読んでていいからね」


 推川ちゃんは資料の中から鳳桜大学のパンフレットを抜き取ると、それを桜瀬へと手渡した。


「紬ちゃんが読んでる間に、佐野くんと柊ちゃんの面談も進めて行こうね。どっちが最初にやる?」


 そう尋ねられて、俺と瑠愛は顔を合わしてアイコンタクトを取ってから推川ちゃんの方を向いた。


「俺たち一緒の大学に行くつもりなんで、一緒に面談しても大丈夫?」


 俺がそう言うと、推川ちゃんはもちろんのこと、桜瀬と逢坂も驚いたように「え」と声を漏らした。


「先輩めっちゃラブラブですね。尊敬します」


 寝転がりながらゲームをしていた逢坂は、顔を上げて尊敬の眼差しを送ってくる。


「わー、そっかそっか。うん、まあそうだよね。何となく予想はしてた」


 その一方で桜瀬は、どこか納得したように頷いた。


「なるほどねぇ。まあそういう決め方もアリかな。ってことで佐野くんと柊ちゃんは、どういう大学に行きたいの?」


「うーん、さっきの桜瀬の話聞いてたんですけど、俺もここから近い文系の大学探してたから、鳳桜大学って大学めっちゃいいと思っちゃった」


「あら、鳳桜大学には理系もあるわよ?」


「ううん。本読むの好きだから、鳳桜大学の文学部がいいかなーって思った」


「なるほどなるほど。佐野くんと柊ちゃんの学力なら……あまり問題は無さそうね」


 そこまで推川ちゃんと話したところで、パンフレットを読んでいた桜瀬が手を挙げた。


「アタシ、鳳桜大学の教養学部に入ろうと思う」


 桜瀬がそう言うと、推川ちゃんは資料に何かを書き込んだ。


「じゃあ紬ちゃんは鳳桜大学の教養学部ね」


 それに続くようにして、俺と瑠愛が手を挙げる。


「俺は鳳桜大学の文学部を受験しようと思う」


「私も鳳桜大学の文学部」


 俺と瑠愛が言ったことを、推川ちゃんは資料に書き込んでいく。


「おっけー。佐野くんと柊ちゃんは鳳桜大学の文学部ね。それでなんだけど、あなた達が望むなら総合型選抜でも受験出来るんだけど……どうする?」


 その問いに三人は揃って首を傾げた。


「総合型選抜ってなんだっけ?」


「アタシも分からない」


「私も」


 三人がそう言うと、推川ちゃんは「そっかそっか」と言って頷いた。


「総合型選抜っていうのはね、簡単に言うと、ここの大学で学びたいですってことで、自分を推薦する入試制度のことかな。普通の入試とは違って、鳳桜大学の文学部なら英語と国語の試験に加えて作文のテストがあって、教養学部なら英語と国語と数学の試験に加えて面接があるのよ。しかも総合型選抜は来年の十月くらいにテストがあるから、結果が出るのも一般入試より早いかな」


 推川ちゃんがペン回しをしながら説明をすると、三人は「へぇ〜」と感嘆とした声で反応した。


「じゃあアタシはそれで」


「俺も総合型選抜でお願いします」


「私も」


 これまたスピーディーに話は進み、推川ちゃんは資料にペンを走らせる。


「これで決まっちゃったみたいね。佐野くんと柊ちゃんは鳳桜大学の文学部を総合型選抜で。紬ちゃんは鳳桜大学の教養学部を総合型選抜で。これで間違いないわね?」


 三人が「大丈夫」と頷いたのを確認してから、推川ちゃんは腰を上げた。


「それじゃあこれでお偉いさんに提出してくるから。あ、鳳桜大学のパンフレットは置いてくからね。学力相応の大学とは言っても簡単な大学ではないからね。それを胸に刻むように。これからも勉強頑張るのよー」


 推川ちゃんは笑顔で手を振りながら、テントから出て行った。

 空き教室の扉が閉まる音が聞こえてから、俺と瑠愛と桜瀬は顔を合わせる。


「どうやら大学も同じみたいだな」


「合格すればだけどね。アタシは学部違うけど」


「大学が同じだけいいじゃないか。大学生になっても適当に遊べるし」


「それもそうね。瑠愛も大学に入ったらよろしくね。湊にベタベタくっついてそうだけど」


「うん、ベタベタする」


 こんなに仲良くなった皆とは離れたくないなと思っていたので、桜瀬も同じ大学を受験すると分かって安心している自分が居る。

 何はともあれ、このまま順調に行けば俺たち三人は同じ大学に進めるのだ。俺だけ試験に落ちるという最悪な結果だけは避けるためにも、今日から勉強を頑張ろうと心に誓った。

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