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晴礼のこと -2-

 初めてその少女を意識したのは、定期検診のため病院を訪れているときだった。


 夏休みが始まる、二ヶ月ほど前のことだ。

 そのときは担当医が他の患者さんに急遽かかり切りになってしまい、長時間待つことになった。いつも忙しい先生なので、俺は呼ばれるのを待合室で本を読みながら待っていた。

 通常の診察受付はとっくに終わっている時間。病院内は閑散としていた。


 病院で過ごしていると、様々な感情に出会う。世界中に様々な場所はあれど、病院というほど正負大小、振れ幅の大きな感情があふれている場所はないと思う。

 時には病気が治ったことに涙し、時には赤ちゃんをあやすお母さんの大変さを目にし、時には希望を目に宿しリハビリをする女の子と出会い、そして時には――


「うっ……くっ……」


 嗚咽を漏らしながら、二人の女性が廊下の向こう側から歩いてきた。

 一人は中年のやせた女性で、もう一人は俺と同じ年頃の少女だった。


「叔母さん……」


 涙を流しているのは中年の女性で、その女性を支えるように少女が優しく言葉をかけていた。少女は目に悲しみの光こそあれど、涙を流すことはなく、叔母という女性を励ましていた。


 雰囲気から、なにがあったのかを察することは容易だった。だてに長期間にわたり、入院生活を送っていたわけではない。一目見ただけで、雰囲気から十二分に察することができた。

 その少女は、春から同じクラスメイトになった年下のクラスメイト。学校では、いつも友だちと楽しげに笑い合い、カメラであちこちの景色を撮影している活発な女の子だ。

 だが、人は得てして弱い部分を持っているもの。悲しいときには、涙を流す。


「叔母さん、大丈夫? 元気出して」


「……ご、ごめんね。本当に悲しいのは、晴礼ちゃんの方なのに……」


 しかし、少女は自分にも悲しみがあるにも関わらず叔母を励まし、元気づけようとしていた。

 悲しみに暮れる二人が、待合室で待っていた俺のすぐ前を横切っていく。

 さすがにいっぱいいっぱいだったのだろう。少女が俺に気がつくことはなかった。


 そのとき、俺は見た。


 優しげで、清らかで、それでいてこのようなときでさえ、暖かさを感じる表情を。強い女の子だと思った。


 そして、同時に――


 その日から、知らず知らずのうちに俺は、その少女を目で追うようになっていた。

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