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こいこい!  作者: 通りすがりの丸腰ぷりん。
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第1話

花札の実況って分かりにくいでしょうか。

書き方も工夫したいものです。

その日は運気がだだ下がりにでもなりそうなほどどんよりとした厚い雲が空を覆っていた。

鞄の中に入った折り畳み傘よ、活躍の出番はありそうだぞ。


俺は荷物を順番に詰めていく。

ファイル、ペンケース、本、ヘッドフォン、財布……それだけで小さいバッグがなかなかの見た目になる。

仕上げとばかりに花札を入れようと──


「あ、悪いっ」

「うおっ」

「すまん、大丈夫か?」

「あ、ああ」


クラスメイトに思い切りぶつかられ、手を滑らせる。

トランプやUNOと違い細かく固い札が教室に散乱する。

陰キャである俺は部長以外と親密に話そうとは思わない……部長と親密な関係にあるわけではないが。


ぶつかってきた男子以外にも2人の女子が拾うのを手伝ってくれる。

その場にいるのがなぜかいたたまれなくなり、俺はお礼もそこそこに教室をあとにした。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



「なるほど、さすが陰キャ根性ですね。運が向かないわけです」

「うっせ。それより、今日はあいにくの天気だ。いろはの運気も下がってるんじゃないか?」

「私の徳が雨に負けるとでも?」


今日も飄々とした顔で四光を揃えてみせるが、やはりこの天気、いろはの運気も下がっているようだ。


いつもならすぐに揃う五光目……雨の光がなかなか場に落ちない。

12月の札は場に落ちている……ということは、手元にもないということだろう。

こいつなら俺にチャンスを与えず最短距離で勝ちに来る。


「……勝負です」

「珍しいな、四光にかすとは。今日は雪でも降りそうだ」

「馬鹿言わないでください。……今日、札を落としたんですよね? 少し中身を確認したいんですが」


天気に運が負けることは無い。

それが証明された、俺にとってはげんなりする瞬間だった。


「雨の光がありませんね。教室にまだ落ちているのでは?」

「そうかもな。拾ってくる」


落としたのは俺のせいじゃないにしろ、確認を怠ったのは事実。

まだ鍵は開いているだろうか。


「わっ!?」

「ん? …………え、雨弓(あまゆみ)……さん?」


扉を勢いよく開いたその目の前に、クラスメイト、雨弓彩芽(あやめ)が立っていた。




「雨弓さん、どうしてここに?」

「ひっどいなぁ。……これ、花柳のじゃない?」

「あっ……ありがとう」


対個人であれば大人数相手よりは幾分か会話ができる。

花柳流陰キャ。


雨弓さんが持ってきたのは、間違いなく雨の光……『柳に小野道風』の札。

よかった、これで勝負になる。

……ま、俺は負けるだろうが。


「いやぁ、綺麗な絵だよね。花札、昔やったっきりなんだよね」

「雨弓さん、でしたっけ? ……よければ私と1戦どうです?」

「あれ、副会長さん。そっか、副会長さんも花札部だったんだね、そんな紹介も聞いた気がする」


さすが副会長、顔が広いこと。

俺は何も言わずに場に8枚札を落とし、机の両辺、向かい合うように手札を並べた。


「ええ、本当にやるの? 私、ルール知ってる程度だよ?」

「分かってます。大丈夫ですよ、ほんのお礼とお遊びだと思ってくだされば」

「ま、準備までさせちゃってるしね。花柳、暇なら私がルール違反してないか見ててくれない?」

「別にいいけど」


この部長は何を考えているのだろうか。

ほんのお礼とお遊びとか言っておきながら確実に手は抜かず、ぼこぼこにするつもりだろう。

……あと、俺では相手として不足だったに違いない。


毎日やってれば、傾向も見えてくるさ。

それでも、いい気はしないがな。


「親は雨弓さんに譲ります。先攻どうぞ」

「ん。……まず1枚」


雨弓さんが手札から場に落としたのは桜のカス。

場に落ちている桜に幕を手にする。

なるほど、確かにルールは理解しているようだ。


山から引いたのは松のカス。


「なら私は……」


いろはが場に落としたのは松に赤短。

光の札を真っ先に撮ろうとしないのも珍しいが、いろはの好きな役は何も五光だけじゃない。

赤短青短両方を揃える『ぶっく』もまた、彼女の好きな役だ。


「うんうん、少しずつ思い出してきたかもっ」


そう言って雨弓さんが場に落としたのは芒に雁。

……? 場に、芒の札は落ちていないのだが。


ルールに則って雨弓さんが山から引いたのは──芒に月!

一見意味の無いような捨て札……けれどそれでいて、かなり自分を有利にする攻めだった。


……いろはの顔も、少なからず驚愕で塗られている。


「雨弓さん、もしかして花札昔得意だったとか?」

「まさか。今のはまぐれだよ、多分。まともに花札をやるのなんて数年ぶりだもん」

「そうですか……」


会話に集中しているようで、それでいて桐に鳳凰で桐のカスを取っていく。

抜け目がないというかなんというが……油断でもしていたのだろうか。今桐に鳳凰が出せ、最初から桐のカスは場に落ちていたのなぜ先に赤短を……?


気がつけばいろはの動向ばかり注目していたが、静かに雨弓さんも攻めていた。


「こいこい」


そう宣言する彼女の手元には飲み、そして猪鹿蝶の役が揃っていた。

……合わせて、18点。その上まだ絞ると言うのか?


目の前の初心者はやはり初心者だった。

長ったらしくてもアレなので1度切ります。

まともに花札実況をするのは次の話でしばらくお休みです。

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