勇者の日常
勢いで書いた単発モノです。
暇な時にクスッと笑えるものを目指した…つもりです。
ピチチチと鳥の鳴き声で一気に覚醒した。
日の上がり具合を見る限り、まだ日が昇って一時間といったところだろうか、そろそろ仕度をと布団を蹴り上げる。
しかしベットの端で寝る癖が抜けず、手をついてスタイリッシュに起きようとすればバランスを崩してベシャリと床とこんにちはをした。
「痛っつ…」
痛い、毎朝やっていることだというのに何故人は過ちを繰り返すのか…大人しく床からのたのたと起き上がり着替えをし始めた。
身支度を済ませて家を出ると筋肉隆々とした男が立っていた。顔に刻まれた皺が若くないことを語っていたが、その年齢を打ち消す程の筋肉とその筋肉に支えられた武器―――いわゆる大剣だ、それも背丈の倍はある―――が彼がただの年老いた人間でないことを告げていた。
もっとも、この村では日常茶飯事のような風景だが。
「おや、おはようルイズ。今日も早いね。」
見た目に対して穏やかな声で話しかけられる。しかし、その声のプレッシャーで今自分の真後ろにある家からミシミシと音が鳴った。ちなみに僕の家は大理石でできている。
「どうもアロルドさん、おはようございます。……今日も魔物討伐ですか?」
「ああ、そうだよ。剣の腕とは一日でも怠ければ今までの積み重ねを崩してしまう。君もそう思うだろう?」
「あぁ……そう、なんですね。いや、僕は剣の腕はからっきしだったもので…」
「そうか、そういえば君はそういう勇者だったな。」
「あはは…」
そう勇者、この世界には度々魔王と呼ばれるものが現れる。大抵魔王は人間の世界に進行して世界を掌握しようとするのでその対抗策として人間から現れるのが勇者だ。
勇者は見事魔王を討ち取った後、故郷に戻り平和に暮らす…………ということになっている。
「ここでの生活には大分慣れたようだな。」
「まあぼちぼちです。」
「しかし君が来た時は驚いたよ、まさか……」
アロルドさんが喋り終わる前に突如爆発音が響き渡った。
慌てて周囲を見回すと僕の家は半壊していた。
「今日は中々威力が強いな。」
「あはは…また作り直しか…」
今度はオリハルコンの家でも作ってやろうかな、なんて現実逃避をしていると、ついでにと言わんばかりの爆発音がもう一度響き渡り、その爆発を起こした原因が煙の中こちらに歩いてきた。
「よお早えな。」
「…お陰様で」
「チッ、もう少しで……」
「今なんか言いました?」
「なんでもねえよ、しかし今日も運がいいな、医者野郎。
剣のジーサンや魔女ババアはともかく、なんでこいつが…」
「だぁーれがババアだって?暗殺の若造。」
「ゲッ、ババ…ヘレナ。」
スタッと地面に降り立った少女は魔法を極めた末に勇者と讃えられたヘレナさん、そして今僕の家を半壊にしたのが魔王を暗殺したことで勇者と判定されたカルロさんだ。
ちなみにアロルドさんは本人曰く普通に魔王を倒して勇者となったらしい。
ここまで言えばわかるかもしれないが、僕が今住んでいるのは勇者と世界に認められた人だけが集まる村、通称勇者村だ。
「相変わらず減らず口な奴ね。いい加減息の根を止めてやろうか。」
「うるせえ!ババアにババアっていって何が悪りぃんだ!大体見た目が子供なだけで中身はアンタ1000超えてんだろうが!」
「ハイ殺すの決定、例え泣き叫んで謝り倒しても殺してやるから。」
「ハッ、やれるもんならやってみろクソババア!」
会話だけを聞くなら物騒なだけで済むが、主にヘレナさんの広範囲魔法やカルロさんが投げる爆発物によって周囲は見るも無残な姿に変わっていっている。
僕の家?既に原型は留めていない。
「全く、此奴らは相変わらず勇者としての自覚がないな…」
「ええ、元気なことはいいことですけれど、少々やんちゃが過ぎますわ。」
「ソフィアさん。」
ゆったりとした歩調でこちらに歩いて来たのは、この村唯一といっていい聖職者、ソフィアさんだ。
その優雅な佇まいと戦事なんて知らないと言いたげな顔立ちに騙されてはいけない、彼女も例外なく勇者である。
彼女は未だ災害をばら撒き続ける二人を見ると
「お二人とも、そろそろ喧嘩を止めませんと」
といい頭上高くに手を挙げた。
「神罰が下りますわよ。」
その言葉を皮切りに、あんなにも晴れ渡っていた空はどんどん曇りだし、ゴロゴロと神罰の前兆が唸りだした。
しかし二人は神罰を恐れるどころか、ソフィアさんに対して噛みつくように喋る。
「貴様は黙っておけ。これは言うなれば駄犬に対する調教よ。」
「俺に説教するとはいい度胸だなぁ…魔女ババアと一緒にその首掻っ切ってやろうか?」
その言葉を聞いた瞬間、神罰がヘレナさんとカルロさんに向かって無慈悲に落とされたが、ヘレナさんは魔法で、カルロさんは持ち前の運動神経で避けて、二人とも無傷のようだ。
「神への冒涜とは…あなた方は特別に私が成敗してあげましょう!」
そして怒り心頭なソフィアさんが加わったことで戦いと被害は苛烈に増していく、いつのまにかアロルドさんが戦いに混ざっている時点で僕には何もできない、例え自分の家が跡形もなく消えても、本来なら美しい景色が見られる村がまるで戦後のように更地になっていたとしてもだ。
そうこうボンヤリとしていれば騒ぎを聞きつけた別の勇者達が次々と戦いに混ざっていく。
「祭りだ、オレを混ぜろ!」
「みんな!私を見て平和になりましょう!」
「神の怒りを知りなさい!」
「消し炭にしてやる、この駄犬が!」
「貴様ら、勇者としての自覚を身をもってしれ!」
「隠居しろや、この老いぼれ共!」
「目標確認、排除します。」
世紀末からこの世の終わりに発展しかけている日常を見つめながら僕は叫んだ。
「勇者認定、返還させて下さい!!!!」
最後まで見ていただきありがとうございました。