村の夫婦
20170323
――とぷとぷと赤ワインがグラスに注がれるような夜が来ていた。
赤紫色の帳がすっかりと空に下されている。
恋人が、夫婦が、兄弟が、姉妹が。寄り添ってぬくもりを分け与えずには居られないような寒さの夜の帳が。
その村の一つ。粗末な立て付けの家には、男と少女が居た。
男はどことなく気まずそうな視線を少女に向けて、良く干した藁の上に好く洗った白布を掛ける。
少女はその色素の薄く、柔らかな茶の髪の間から覗く耳たぶをかっかと赤くして、その様子を見ていた。
――二人は夫婦だった。
ついこの間に成立したばかりの本来ならば婚姻する年齢ではない少女と、本来ならば少女の姉と結婚するはずだったが、兵役によってそれが出来なくなり、最近になって帰村したばかりの男。
本来ならば義兄となる男を夫とした少女。
本来ならば義妹となる少女を妻とした男。
気まずくならないはずもなかった。
その上に男にはどうにも少女が『女』として見れなかった。
少女はその事を感じ取っていた。
態度で、視線で、ふとした時に。
――仮にも夫婦だというのに、そんな対応はどうしたものか。
少女は嚇怒した。
別に抱かれたいと言うほど淫乱な女ではないが、さすがに腹が立つ。
か細い、空気に溶けて消えてしまいそうな声音で「妻」は「夫」の名を呼んだ。
服は少しだけきれいなものを。
肌は少しだけ念入りに磨いて。
唇は少しだけ薄淡紅を刷いて。
最後に、
顔は少しだけ魅力的に映る様に願いながら――
ゆっくりとズボンを下ろす。
日に焼けた太腿と、身に着けた下着に男が視線を思わず注いだのを感じて。
少女は――その夜に、女になった。