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肌をすり合わせる神父様と聖女様の話

20161113

しゃらしゃらと、少女の夜着のしわに金糸が流れるのが見えた。

ごく、と意図せず神父は喉を鳴らし、少女は、聖女はそれを仕方ないとでもいうように息を吐いた。

教会は清貧をこそ以てよしとするが、それは住居に痂疲を許すという事ではない。


贅を凝らす必要はないが、非日常感を抱かせる造りであり。

風通しは良く、隙間風は無く、そして清められている事こそが本懐と言えた。


そのように作られていてもなお、とある地方の町教会を冬を思わせる寒波は堪えがたく、また、備えることが困難な程に早く襲った。


薪の支度は然程なく、衣類は教会の上から支給されるもので過ごすのが――最もその上が支給される衣服以外を身につける事はザラだが――一般的な信仰の徒のあるべき姿であった。

そして、不幸な事に、冬服が支給されるまではまだ早く、昨年のそれは既に雑巾になっていた。


とにもかくにも、凍死するわけにもいかなかった。

信仰を以て成る教会の信徒が、哀れにも――と言うのはあるが、なによりそのような醜聞を出してしまえば、嬉々として上層部は街教会を潰すであろうから。


かくして、金糸の少女と、茶毛の神父は、肌を寄せ合うことになったのである。

しかたない、仕方ないとお互いに言い訳をして。

――その間に、如何なる感情があったか、はおそらく二人しか知らないことであろう。


しゃらしゃらと、少女の夜着のしわに金糸が流れるのが見えた。

ごく、と意図せず神父は喉を鳴らし、少女は、聖女はそれを仕方ないとでもいうように息を吐いて。

藁を白い布で包んだベッドに先に横たわった。


神父は、もう一度喉を鳴らし、次には神の名を三度噛み潰すように唱えた。


――神父は、この聖女に恋をしていた。

聖女とは、傷を癒せる者である。

そして、その力は、男と交わると消えると言われていた。


一方で、少女もまた神父を慕っていたが、彼女の事情がその成就を許さなかった。


しかし、寒波がその機会を訪れさせた。好機である。かの大王もここで攻め入らねば難攻不落の城は落とせまい!と叫んだかもしれない。


――ねないんですか?

聖女の甘く聞こえる声音が、神父の耳を優しくなでた。

――明日もはやいですよ、神父様。

歌うように、誘う。

――日の出と一緒に起きて、中庭の畑を耕して、一緒に教会をお掃除して、明後日の集会の用意もしなくちゃいけません。


だから、ね?


少女の目の中に、月が映っていた。

――寝ましょう?


観念したように、男は息を吐いて、一枚だけある大きな毛布を少女と自分に被さる様に放って、ベッドに身を横たえた。

聖女に背中を向けて。


その寸の間も無く

もぞ、かさ。

と背面から音がした。

――そっちは寒いですよ、神父様。


男の首に、少女らしいひんやりとした温度の、少しだけ荒れた手が触れる。


首の形を確かめるように撫でた手は、今度は顎に指先を添えた。


もう片方の手が、恥じらうように神父の夜着の背中をつまむ。

く、とたおやかだが強く、二方向から引かれる感触。


――こっちに来て、温めてください。


希うような、請い願うような――恋願う、ような。

男が知る少女らしからぬ、甘えた声音。


ごく、と唾をのんだのは男か女か、どっちであったのか。

どちらもわからなかった。背中を引いていた手は、いつの間にか胸板へと延ばされ、そして、背面から合わさった腕は、男をぎう、と抱き寄せた。


少女の慎まやかな胸が、男の背中で潰れる。

比較的厚い筈の夜着でさえその感触がわかるのは、それほどまでに男が意識をしているからか。

わからなかった。なにも。信仰はなんの支えにもならなかった。

それでも。少女をどう思っているか、だけは男にとって確かな導だった。


どく、どく。

血の音がお互いの紅潮した頬や耳からした。

相手が自分の事を意識している、とはっきりわかるほどに、痛いくらいに、伝わる。


それでも、男は、神父は。それでも。


ぐる、と男の躰が少女の腕の中で反転した。


そして、少女の頭を掴み、自分の胸板へと押し付ける。


どく。

どく。


激しい音。興奮している音。――意識してくれている、音。


少女は、それだけで。


――今日は、これくらいで満足します。


良いか、良くないかでは勿論良いわけがないが――少女は、聖女の事情をはっきりと認識していた。

そして、神父がどのような男であるかも。


だから、今日は我慢してやろう、と思った。想えた。


少女は、少しだけ涙を流して、そして、瞼を閉じた。

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