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私の淑女

20171108

戦士は初めてベラドンナの雫を瞳に受け入れた。


逆に言えば、それだけしかしなかった。

瀉血をすると聞けば「戦いで流すための血をたかが着飾る為に流すのか、馬鹿々々しい」と言い、

白鉛を含んだ顔料を塗ると言えば「阿呆なのか。この肌を覆うほどにこれを恥と思ったことはない」と嘯いた。


ただ、「花の雫を眼に入れるのは良い。してくれ。」


と言い、簡素で胸元の開いたロココ・ドレスと膨らませたパフ・スリーブと髪を覆うだけのベールを纏い、相手役のエスコートを受けた。


『女性らしからぬ』太い腕や逞しい背中を惜しげもなく晒し、『貴族的ではない』傷に満ちた手を嫋やかに男爵へと預け。


「似合わぬだろう。サー・バロンの良き夜の相手には相応しくない。」

と胸を張って言う。

その瞳には戦いに明け暮れた自分への確かな自負と、『女』としては不適格であると言う不安が揺れていた。

騎士男爵は揺れる感情を見て取ると唇を寸の間噛み、まだ日も暮れ始めた時だというのにそれを口にするのを躊躇い、そして口を開く。

星々が空に浮かびあがるのに勇気をもらったかのように。


「いいえ――いいや」


「私の淑女マイ・レディ。貴女は今宵集う女性の中で最も美しい。全ての女性の目を見開かせ、あらゆる男の視線を奪うでしょう。」

「世辞を」

「世辞は弄してない、弄する必要もない。」

真っすぐに視線を合わせる騎士の顔を戦士は見た。

――ベラドンナの雫を落としていて良かった。


毒と知りながら無理やり瞳にそれを入れたのはきっと、感情を悟られたくなかったからだ。

この、燃えるような恋情を目で見られたのならばきっと、それは『愛を悟られてしまう』からだ。


それだけは、我慢できなかった。

相手から愛を囁かれたい、と言うのが戦士の細やかな願いだった。


それが、それだけが。


彼女の唯一の『告白だった』。

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