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ルフェミアは死ぬことにした

20170603

 『君たち』は腕利きのハンターである。

 あらゆる土地を巡り、あらゆる問題を探り、あらゆる物を探しあててきた。


 しかし、その中でも今回の依頼は極めて『難しい』物だった。


「なんとか――何とか、お願い出来ないだろうか」

 窓の外から傾いた中天の柔らかい陽がさす中。

 恰幅が良い壮年の男が――この近郊諸都市に置いては並ぶ者が居ない統治者と称えられる貴族の男が、頭を下げた。

 依頼の内容がそれほどまでに困難な事なのであろうか、と疑う君たちに彼は安心させるためであろう、僅かに顔色の悪い頬に笑みを浮かべて内容を告げた。


「長女であるルフェミアが領地の森に入って出てこない、と思われる」


――駆け落ちでは? 口を挟まれた事に気を悪くした様子もなく、貴族は頷いた。


「娘の部屋に手紙が遺されていたんだ。

『二度と見られぬ姿になってしまいました

お父様、お母様に育てられた事はわたくしにとってこれ以上望むべくもない喜びであり、そして恩寵でありましたが――

ルフェミアはルフェミアの愛したかの森で死ぬことにいたします。

何卒、何卒探そうとしないでください』、と」


 男は此処でため息を吐き、何かを掴もうとして手を彷徨わせた。

 ぱちぱちとまばたきをした後に手元に置いてあったベルを二度鳴らす。


「君たちに依頼したいのは他でもない。ルフェミアの安否を確認して欲しいんだ。可能ならば彼女と話して、何が起こったのかを探ってほしい」


――連れ戻すのではなく?


 男はその言葉にきょとんとし、そして次には過去を見るような表情をする。

 ややあって、思索をそのまま口にするように言葉を溢した。


「あの子は軽々に『死ぬことにいたします』なんて言葉を使う子ではない。そして『二度と見られぬ姿』と書いていた以上、何かしら恐ろしい事態が私の娘に起こっているだろうから」


だからこそ、まずは安否を確認して欲しい。

そう締めくくった彼は、此処まで語ってしまったことをを恥じらうように『君たち』に声を掛けた。


「ともあれ、貴族としては君たちを歓待せずに送り出すわけにはいかないからね。良ければ菓子とお茶でも楽しんでいってくれ」


――勿論、探索にかかる費用は報酬とは別にこちらが持つから安心して欲しい。




――――――

――――

―――

――


 『君たち』が森に踏み入ったのは歓待の翌日である。

 歓待が終わるころには陽が陰っており、そのままの捜索は如何なる腕利きと雖もリスクが高かったためだ。


 森は程よく人の手が入っているのだろう、足の踏み入れる場所どころか人が二人並んでなお余裕があるほどの道が確保され、広場すらいくつか設けられている。


――これは良い森だな。


 君たちの一人が感嘆の声を漏らす。良い森とは無節操な環境ではなく、ある程度人の手が入った森の方が森にも人にも恵みをもたらすのだ、とも。

 感心する君たちがなおも歩を進めると、視界の隅にドレスが映った気がする、と一人が声を発した。


 一息の間に緊張が走る。警戒態勢に移行した彼らの背後から。

「――やはりお父様はハンターの方々にお願いしましたのね」


 鈴の音を転がすような声が聞こえた。先ほどまで歩いてきた場所なのに――!? 彼らはその方向に首を回し――愕然とした。


「あれほど探さないで、と書いたと言うのに」

 ふっくらとしたベルの様なドレスの裾から黒く醜悪でありながらぬらぬらと柔らかい脚らしきものが幾本も伸びている。

 異様な光景でありながら少女がその事は当然の様に受け止めている表情をしているのが一層の不気味さを醸し出していた。


「お初にお目にかかります。わたくしはこの土地の領主の娘ルフェミアと申します。ご覧の通り」


 ゆるゆるとその触腕がスカートの内側から淑女の礼をするようにすそをたくし上げた。


「怪物となってしまったみたいですの。」



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