プロスケーターの不慮の事故
神代 幸子。11月25生まれの24歳。
私はフィギュアスケート選手だった。かといって羽生千鶴や浅田真由、荒川静江のように桁違いに上手かったわけではない。それでも国体には群馬県代表として出場したしインターハイも3年連続で出場した。いわゆる上の下にいたのが私だ。
そんな私は今年からディニー・オン・アイスでプロスケーターとして世界各国でショーをしてまわることが決まっていた。世界選手権やオリンピックに行きたいという夢は叶わなかったが、私はこれからもスケートをしながら生きていけると思うととても嬉しかった。
しかしそこで悲劇が起こる。
私は後輩たちと家でお酒を飲んでいたが、あろうことか嘔吐物をそのまま喉に詰まらせお陀仏してしまった。
当時は死んでしまったことが信じられなかったし、とてもショックだった。まさか自分が嘔吐物をのどに詰まらせ死ぬなんて…、24年間も生きてきてそんな最期なんてあんまりだ。
しかし目の前にはもう二度と脈打つことのない私の身体があり、泣いている先輩、後輩、同期、そして両親と恋人がいた。みんな泣いていた。
やがて私の身体だったものは小さな壺に収められた。
もうすぐで45日、なんとなく感じる。魂のお迎えが来た。
「お父さん、お母さん、巧真君、そしてみんな、ごめんね」
最後に大切な人たちがこれからも健やかに生きていけるように願い、そして…
私は無になった。
と、おもいきや?
なんと私、異世界でエルフに転生しちゃったんだよね!え?キャラぶれてる?そりゃ前とはまた違う人生?ってかエルフ生?を生きてるんだからキャラもぶれるよね!
ってかもう人間で生きてた時間よりエルフとして生きてるほうが長いと思うんだけど。
人間の父ちゃんと母ちゃん元気かなぁ。多分もう死んでるだろうけど。ま、死んだのは私のほうが早かったんだけどね。
私がエルフとして生まれてから254年。人間に換算すれば私が死んだ年齢と同じ24歳くらい。
エルフは馬鹿みたいに長生きだ。その代わり出生率はすごく低い。私たち人間(っといっても前世だけど)は70億くらいいたけどエルフは1億くらいしかいない。
しかしこの世界にも人間はいる。でも人間だけじゃない。私たちエルフのような妖精からゴブリンやスライムといった魔物がこの世界で共存している。それらを合わせると個体数は70億は普通にいってる。ってか絶対もっとたくさんいる。
でも、やっぱり人間が圧倒的に個体数的に多いかもしれない。出生率はトップだから。前世は人間だけど、エルフからしたらネズミの繁殖を見てるように人間はものすごいスピードで増えていく。
「アメリちゃーん、お客さんだよ~」
そうだそうだ、今は仕事中だったんだ。さっきのお客さんが人間だったからつい前世のことを思い出して感傷に浸ってしまった。しっかりしなくては。
私は声が聞こえた方向へ返事をし、もう少しで行くことを伝えた。
「アメリもう次のお客さん?人気者だねぇ」
そう言って私の隣の椅子に座ったのは同じ職場で働くサーシャ。エルフ特有のとんがり耳、翡翠の瞳に透き通るような白いロングヘアー。性格がどうにかなれば私より売り上げあがると思うんだけどなぁ。
「でも次の人、一ツ目なんだよ。お酒臭いし。嘔吐物のどに詰まらせて逝ってしまえ」
まぁそれは私だけど。
「それ顔見て言っちまえばいいのに」
「やだよ!来なくなっちゃったら稼げないし…!あの人めっちゃお金つかってくれるから」
「まぁ頑張ってきなさいな~」
そういってサーシャは外に煙草を吸いに行った。
そうそう、私たちが何の仕事をしているのかまだ教えてなかったよね。
人間のお父さん、お母さん、あなたの娘は24歳で喉に嘔吐物をつまらせ亡くなったのち、この世界にエルフとして再び生をうけました。そして人間の年齢に換算するとおおよそ24歳…。プロスケーターを志したあなたたちの娘は…
人間の世界でいうキャバ嬢をしています。