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ワールドシステム

 魔法は世界から失われた。


 前兆はなかった。ある日突然、マナの気配は消えていった。オドの生産性は勢いを失っていった。自由に空を飛び、傷を癒し、神秘を思うように扱っていた人々はこの事態に狼狽えた。彼らは泣き叫び、絶望した。自身にある、誇りだとか自尊心がみるみるうちに崩壊していくのを感じ取っていた。


 世界が混乱している間にも消失のスピードは手を緩めない。ようやく恐怖から脱した者たちによって打開策が発表された。それは重大な危機に対する画期的な解決法というよりは、魔法の消滅という前提を踏まえての苦渋の決断であった。


 遅かれ早かれ、魔法という神秘の力は失われてしまうだろう。だがその力を用いて都市を、国を築いてきた彼らには誰にも譲れないものがあった。「自分こそが建国の父である」という自負、それに繋がる魔法先進国としての誇りを未来に託す責任と義務。


 彼らは世界に魔法を残すことにした。ある者は国を守る防壁として、ある者は国を繋ぐ交通手段として、内に残った微かな魔力を振り絞った。かつてここには魔法があった。世界を作った神秘の力があった証を、自分たちが心血を注いできた人生を、彼らは最後の足掻きとして世界に深く杭を打ちこんだのだ。


 後悔も未練もある。何故一秒でも長く魔法を使える手段を探さなかったのかと、こんなにも素晴らしい力を失わなければならないのかと、理不尽な現実に怒りさえ湧いた。しかし彼らは無様にもがく一生より、潔く未来へ手放す一瞬を選んだ。彼らは魔法使いとしての本質を痛いほど理解していた。だからこそ託した。清々しい気持ちで。


 栄光を欲しいがままにした魔法はなんの前触れもなく消滅。今や魔法は古の魔法や希少な魔法道具を残して、世界から葬り去られた。しかし過去の遺物と成り果ててなお、それは絶対的な権力の証として君臨している。


 魔法が消滅してから約千年。


 その間に剣や弓を使った武術が大流行し、己の研鑽といかに良質な魔法道具を手に入れるかが出世の鍵になった。庶民でも腕さえ立てば貴族付きの騎士に召し上げられ、時には王族の側近にまで成り上がった者もいるほどだ。


 力があるか、ないか。それだけで将来の名誉と安寧が約束される。世界は今や力ある者が全てを手に入れる、弱肉強食の世界になってしまった。

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