第8話 フィアスの決意
「……うーん」
次の日、目を覚ました俺は今日から何をしようか悩んでいた。
昨日ギルドに登録して一応冒険者になったんだっけ?
なら、この街からでるか?
いや、お金もあまりない。ここはしばらくこの街でクエストをこなしてある程度稼いでから出て行くべきか。ユーフィの光属性魔法も見てみたいしな。
とりあえずどんなクエストがあるか見てくるか。ひとまず俺は部屋を出てギルドへ向かうことにした。
「あれ?」
ギルドの中に入ったところで俺は思わず声をあげた。
鮮やかな白い髪の少女、フィアスが受付のお姉さんと何やら話しているのを見かけたからだ。一昨日に見かけた時と違い、長かった髪は青いリボンのようなもので後ろに束ねられている。
どこかへ出かけるのだろうか? そう思っていると受付のお姉さんとの会話が終わったようで彼女は踵を返し、俺と目があった。
「っ……和樹さん?」
驚いて駆け寄る彼女に俺は軽く右手を挙げた。
「おはようフィアス。どこかに出かけるのか?」
「おはようございます和樹さん」
そう言うと何故かフィアスは表情を曇らせた。
ひとまずギルドを出ると、彼女は口を開いた。
「……実は一昨日、私の家に仕えている爺が病気で倒れたんです」
フィアスは俺に話してくれた。
自分があまり両親や仕えている人達からあまり良く思われていないこと。
そんな中、そんな人達とは裏腹に自分が生まれた時からずっとそばにいてくれた爺。
彼女にとって爺がどれだけ大切な人か、真剣な表情で語る彼女を見るや明らかだった。
そんな爺が俺と出会った日の夜、突然苦しみながら倒れ、意識不明の状態になったという。
「お医者さんにも診てもらいましたが原因は分からないそうです。このままだとずっと目を覚まさないかもしれないと。でも……」
フィアスの小さな手が強く握られる。
「最近、ある噂があって、この原因不明の病が王都でも流行っているらしくて、もしかしたら国王であるバルヘイム様なら何か知ってるかもしれない……だから」
途端、フィアスが強い眼差しで俺を見た。
「今から国王様の所に行きます」
「えっ、今から!?」
突拍子も無い言葉に思わず聞き返す。
「はい」
「王様って領民とそんな簡単に取り合ってくれるの?」
俺は疑問に思ったことを彼女に問う。
王様っていうと俺のイメージではとても忙しい人だ。そんな人の元へ領民である彼女が訪ねてきても門前払いされるのではないだろうか。
「その辺は大丈夫です。既に王様には手紙で私が訪ねることを伝えています。それに私はバルヘイム様の娘、エルシィ王女と親しい関係で国王様とも顔見知りです」
「そ、そうなんだ……」
ん? 王女と仲がいいってことは、フィアスって……
するとフィアスは小さく微笑みながら言った。
「こう見えて私、お嬢様ですから。といっても三女ですけど」
「そっか。……えっ!?」
話を聞くにそこそこ裕福な家庭なんだろうな〜っと思っていたがまさかのお嬢様だった。
「……フィアスの目的は分かったけどさ、それってお姉さんやご両親は許可してくれたの?」
そう言うとフィアスは苦笑した。
「両親は和樹さんも聞いた通り、私が何をしようが何も言いません。お姉様方には止められましたけどね」
てへっと舌をだすフィアス。この子なかなか肝が据わってるなぁ。
けどなんか心配だなぁ……ラノベとかでよくあるんだけどチンピラとかに絡まれそう。この子の場合可愛いから余計に。
「ここから王都まではどのくらいかかるんだ?」
「うーん、アステムの街まで着くとバルヘイム様の住む場所まですぐなのでここからアステムの道までと考えますと馬車の場合3日ほどで着くと思います」
うん、心配だ。
「フィアス」
「は、はいっ?」
「俺も行こうか?」
途端、フィアスは慌て始めた。
「そ、そんな! 和樹さんには申し訳ないです! それに小さい子供じゃないんですから1人で行けます!」
必死に手振り身振りでうったえるフィアス。そうじゃなくて……
「大丈夫。俺、今何もすることないから。それに1人で行けるって言うけど王都まで3日もかかるんだったら道中危ないだろ?」
「それはそうですけど……その、いいんですか? 私と一緒に来てもらって」
「あぁ、もちろんだ」
「……ありがとうございます」
小さく呟く彼女に、俺は思わず俯き、頭を掻いた。
早速王都へ向かうことになるのだがその前に揃える物がある。
フィアスの武器だ。ミール街を出て少し歩くとすぐに魔獣や魔物が出現する可能性のある区域となる為、準備する必要があった。丸腰じゃ食われるだけだからな。
そう思い、フィアスに言うが……
「武器ですか? それなら持ってきましたよ」
そう言い、俺に2つの剣を見せてくる。青く透き通った剣で斬れ味とかとても良さそうだ。
「えっ?」
「ふふっ驚きました? こう見えて私冒険者もやっています。職は双剣です」
逆に俺は買わないのか聞かれ、召喚魔術があるからいらないと言ったが、護身用の短剣は最低でもあった方がいいと言われ、鉄の短剣を2つ購入した。