第6話 召喚と赤髪少女
「……ふぅ。なんとか野宿せずにすんで良かったぜ」
あれから意識が戻った俺は、偶然なのかそれとも神様が何か仕向けてくれたのか、馬車に乗っているお金持ちの人に声をかけられた。豪華な衣装に身を包み、黒髪、長身でほっそりとしているが顔はなかなかのイケメンだ。
『あれ? 君、あまり見かけない顔だね。服もこの辺じゃ見かけないし、もしかして旅人? もし迷っているんだったら僕がこの先にあるミール街まで案内するよ?』
俺はその厚意に甘え、馬車に乗せてもらい、ミール街まで連れて行ってもらう。
更にありがたいことに宿の場所まで教えてもらった。まぁお金無いんだけどな。礼を言い、別れようとすると再び彼に止められた。
『もしかして君、お金持ってないの?』
俺は言い当てられ、思わず驚いた。どうやらこの人、本当に困っている人の表情が分かるらしい。
そして事態は更に驚ろく展開に。
『うーん……あ、そうだ! 良ければ君の今きている上着を僕に買い取らせてもらえないかい? そうだな……金貨3枚で! 君の着ている服は見たことないからぜひ買い取らせてほしい!』
俺は思わずその案に飛びついた。いくらか全く分からないがこれで野宿せずにすむからだ。……明日から稼ごう。
こうして俺は上着とブレザーを金貨3枚で彼に譲った。
そしてその金貨で宿に泊まることが出来た。助かったけどほんとに良かったんだろうか……?
食事風呂代込みで一泊銅貨3枚。歯ブラシを買うと銅貨8枚と大きいコインが8枚と小さいコインが2枚お釣として帰ってきた。ということは銅貨は一枚あたり日本円で1000円くらい、と考えた方がいいか?
じゃあ銀貨が一枚あたり10000円と考えると金貨は……
「はぁっ!? 一枚10万だと!?」
てことはあの人ブレザーを30万で買い取ってくれたのか!?
日本円で考えるとなんだか申し訳ない気持ちになる。
「まぁいっか。とりあえず明日から何かしないとな……」
100泊も泊まれるとはいえ、何もしないわけにはいかない。それに暇だしな。
次の日、俺は昨日彷徨っていた草原へと来ていた。昨日出会ったお金持ちの人いわくここはミール平野という平野で初心者とかがよく腕試しに来ているらしい。
……俺は昨日ツチノコと間違えてチュロリアとかいうヘビに気絶させられたけどな。
とりあえず練習がてらあれやるか。
俺はポケットからカードをとりだす。そこには蟻のような模様が描かれている。
そこでふと気がついた。
「どんな呪文を唱えたらいいんだ?」
何も思い浮かばないんだが……
その時、茂みの中から何かが飛び出してきた。って、これじゃあポケ◯ンみたいだな。
「チィーー!」
そいつは昨日見たツチノ……いや、ヘビだ。
「でたなこのツチノコもどき」
俺がそう言うとやつは俺に背を向け、尻尾をフリフリしてきた。もしかして俺、舐められてるのか?
てかコイツ昨日のやつだな。絶対ぶっ飛ばしてやる。
そう思った次の瞬間、ある言葉が頭に思い浮かんだ。よし、これでいこう。俺はポケットの中から箱を取り出し、カードを手にする。蟻のシルエットが描かれたカードだ。
「っ! カードに描かれし者よ……我が声に応えよ……召喚!」
……あれ? なんか厨二臭くね? 自分で言うのもなんだがすごく厨二くせえ……
「うおっ!?」
途端、カードから黒い煙がモクモクと現れ、辺りに散漫する。まじで召喚出来た……
やがてら煙が消えた頃、辺りを見回すが何もいなかった。
「あれ?」
ラノベとかだともっとこう……竜とか強い奴がでて無双出来るのに。
もしかして失敗したか?
いや、失敗していなかった。
俺は確かに召喚に成功した。
俺の足元にそいつはいた。
「……」
真っ黒な体に6本足。そして頭には2本の触覚がピクピクと動いている。
そう。蟻だ。俺は蟻を召喚したのだ。
「あ、うん……」
なんとなく分かっていた。カードに描かれたシルエットの魔物が召喚されることは。竜を期待したのはほんのちょっとだけだうん。
「チッ……チチチ……」
あのヘビ笑ってやがる。絶対倒す。
そんな俺の考えが通じたのか、蟻が何やら歩き出した。
「……?」
俺も、笑っていたヘビもその蟻の様子をじっと観察する。段々とヘビに近づく蟻。
しばらく様子を見続け、やがてヘビの真下にまでやってきた。
ヘビは絶対勝てるわけないと思っているのか、蟻を見下ろしたまま何もしない。やれるもんならやってみろ、か。すると蟻は地面に2本の触覚を突き刺した。って、え?
ドッゴオオオォン!
「チイィィーーーーッ!?」
「なっ……!?」
次の瞬間、俺は目を見張った。もうがん開きだった。
なんと蟻は触覚を抜き出したかと思うと、それと同時に地面にある岩も持ち上げ、その上に乗る蛇ごと空へ吹っ飛ばしたのだ。
もう怪力ってレベルではないぞこれ。え、やば!
アースインパクト。俺は思わずそう名付けた。
その後、落っこちてきた蛇は地面に強く叩きつけられ、お亡くなりになっていた。
「お前すごいな……」
俺は戻ってきた蟻を見下ろしながら言う。すると蟻は二本足で立ち上がり、えっへん! みたいなポーズをとった。もしかしてこいつ、俺の言葉が分かるのか?
とりあえず……
「お前に名前つけるか……蟻って呼ぶのがなんか申し訳ないわ」
このまま蟻と呼び続ける訳にもいかず、俺は首を傾げながら考える。
うーん……そうだ!
「蟻だからアーリー。どうだ?」
すると喜んでいるのか、アーリーはぴょんぴょん飛び跳ねていた。なんか可愛いな。
しばらくアーリーを眺めているとアーリーが右手でちょんちょんと奥の方を指す。それにつられ、後ろを振り向くとーー、
「……あんた何してるの?」
そこには痛々しい目で見てくる少女がいた。
真っ赤なルビーのような髪色をし、つーさいどあっぷ……だったか? とりあえずそんな感じの髪型をしており、活気溢れるその赤い目からは強気でありそうなイメージを思わせる。
まずい、早く誤解を解かないと俺が可哀想な子に見えてしまう。
「え、えと……召喚した子と話してたんだ」
「あっ、そうなの? てっきりなんか怪しいことしてる人だと思ったからギルドに通報しようと思ってたんだけど……」
物騒なことを言いつつ俺に駆け寄る少女。
「それで、召喚した子ってどこにいるの?」
「えっと、そこの地面……」
歯切れ悪く答える俺。そこにはビシッと敬礼のポーズをとったアーリーがいる。
少女は目を丸くした。
「え? あ、蟻……?」
「そう。アーリーっていうんだ」
そう言うと少女はポンポンと俺の肩をたたいた。
「……あたしで良ければ相談に乗るわよ?」
「違あぁぁぁう!!」
その後、俺は少女にここにきた経緯を話し、なんとか誤解を解いた。
あ、ちなみにアーリーはそのあとカードの中に戻ってもらった。俺にどのくらい魔力があるかは分からないが存在を維持する魔力が必要だと思うしちっさいから誰かに潰される可能性が高いと思ったからだ。
「へぇ、驚いたわ。普通魔物の召喚って魔法陣から召喚するものだけど……あと、まさか蟻を召喚するなんてね……」
「いや、俺もびっくりしたからもう可哀想な目で見ないでくれ」
「で、あのへびを何体狩るの?」
アーリーが倒した蛇を指差しながら言う少女。
「いや? 別に何体とかないけど?」
「はぁ? あるでしょ? クエスト受けた時に書いてあったはずよ?」
え、何それ美味しいの?
「クエストって何?」
「えっ?」
「はい。これがギルドカードです」
ギルドのお姉さんにそう言われ、白いカードを渡された。なにこれホワイトカード?
「いい? そのカード失くしたら駄目よ? 再発行は色々とめんどくさいんだから」
そう言う赤髪の少女。
「以上で登録は終了となります。お仕事の依頼はあちらの掲示板に貼ってありますのでそちらをご確認の上、こちらにある受付までお越しください」
「これでようやくクエスト受けられるわね。あんたの召喚の練習を兼ねてやるわよ」
「お、おう」
正直、クエストを受けるつもりはなかったけどまぁいっか。
すると少女は俺の前に立った。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしの名前はユーフィリア・デュランナよ。ユーフィでいいわ。あんたは?」
「俺は斉藤和樹。和樹が名前だ」
「ふーん? 珍しい名前をしてるわね」
「ま、まぁな」
まさか、異世界から来ました。なんて言える訳が無い。自分でも未だに信じられないが。
「んじゃ早速クエストやろっか」
「へ?」
「とりあえずこれかな」
掲示板から張り紙をはがし、受付に持っていくユーフィ。行動が早い。
と、ギルドを出たところでユーフィが話しかけてきた。
「そういえばあんた武器は? あたしはこの鉄鉤爪があるけど」
そう言い鉄鉤爪を見せる彼女。鳥の爪を鉄でコーティングしたように見える。
俺は聞かれて思わず頭をかいた。
「いやぁ……それがないんだよなぁ……」
するとユーフィは何故か納得したような顔をした。
「あ、そっか。あんた召喚出来るんだったわね。てことは職は召喚士ね。ギルドカードに書いてあるはずよ。ちなみにあたしは武闘家よ」
ギルドカードを裏返すと確かに書いていた。右上に太い字で召喚士と。
「んじゃそれでいいんじゃない? 本人丸腰だけど」
そう言いぷっと笑う彼女。
「いや絶対それまずいだろ」
「んじゃ魔法は? 適正がないと全く使えないけど」
あ、魔法かぁ。
「確か全属性使えたような……?」
「え?」
嘘でしょ? と言わんばかりの顔をするユーフィ。
「いや、でも使えるって言われたんだよ」
「誰に?」
神様です。というより使えるようにしてもらったて感じだが……
「えっと偉い人……?」
硬貨の話が出てきたのでここで説明。
この世界の通貨はスピアと呼ばれている。
1スピア=1円
銅貨1枚=1000円
銀貨1枚=1万円
金貨1枚=10万円
白金貨1枚=100万円