第5話 爺とお嬢様
フィアス・アストレイン。彼女はアストレイン家のお嬢様であり、三女である。
長女と次女は共に容姿端麗、学力優秀、運動神経も抜群で両親にとっては誇れる娘であろう。
しかし、三女であるフィアスは2人の姉と違って普通、もしくはそれ以下だった。学力平凡、運動そこそこ、容姿は子供っぽい(容姿については幼い頃のフィアスは、美人な姉達に対し、彼女はどちらかというと子供っぽい顔だった)
普通。そして姉達より劣っている。その事実は7歳になり、学校に入学してから更に露見した。
そして、その日から急に両親に愛されなくなり、更に冷たくあしらわれるようになった。
使用人達もまるで腫れ物を扱うかのように彼女に対して距離を置きはじめた。
そんな中、2人の姉とアストレイン家にずっと仕えていた爺だけは違った。特に爺。
彼はフィアスが生まれた時からずっと彼女のそばにいた。
「フィアスお嬢様、ボール遊びでしたらこの爺がお相手になりますぞ」
「フィアスお嬢様! どちらへお出かけになられるのですか? 宜しければ爺もおともいたしますぞ!」
「フィアスお嬢様。今日の夕食はこの爺におまかせ下さい!」
フィアスが1人で何かしようとすると必ずその様子を見守り、毎日フィアスの身の回りの世話をこなし、フィアスが困っていたらいち早く駆けつける。
爺はたくさんの愛情をくれた。自分をほったらかしにした両親と違って。
「ねぇ爺」
「どうなされました? フィアスお嬢様」
フィアスの呼ぶ声に即座に彼女の元へ駆けつける爺。
ふとフィアスは思ったのだ。なぜここまでしてくれるのかと。何も取り柄がない自分をどうしてここまで愛してくれるのか。
「爺はどうしてずっと私のそばにいてくれるの?」
するとそれを聞いた爺は穏やかな表情で答えた。
「それは……お嬢様が生まれたあの時から可愛くて可愛くて仕方ないからであります。この爺、生涯を終えるまでお嬢様と共におりますぞ」
可愛いい? こんな私が? けれど、爺はそれ以上答えてはくれなかった。
私は思う。いつか凄い人になってみんなを見返し、そしてーー、
爺に恩返しをする。
いつしかそれが私の目標になっていた。
そんなある日、そんな私の邪魔をするかのようにそれはきた。それは、ちょっと間抜けで不思議な彼と出会ったその日の夜だった。
「うっ……ぐっ!」
呻き苦しみながら地面倒れ伏す爺。その日は、丁度王都から帰ってきた時だった。
「爺!」
私が駆けつけた時にはすでに意識が失われていた。
爺の身に起こった突然の病。それは誰にも分からない不病の病だった。
街のお医者さんに診てもらうが治す方法どころか病の元凶すらわからない。
このままだと爺が目を覚ますことは二度とないだろうとお医者さんから宣告された。
「爺……」
ベッドに横たわり、眠り続ける爺。
幼い頃からよく働いてずっと私のそばにいてくれたあの頃の元気な爺はもういなかった。
それでも私は諦めなかった。必ず治す方法がある。そう信じて。
そんな時、ある情報が舞い込んできた。王都で似たような病が流行っていると。
そうだ。もしかしたらあの方なら何か知っているかもしれない 。
そんな1つの希望が私を奮い立たせた。
「っ……爺、必ず目を覚まさせてあげるからね」
彼女は爺にそう告げ、部屋を出た。