第45話 理解、旅立ち
「でも良かったです」
「え、何が?」
「眠る前の和樹様はまるで希望を失った人のような目をしていたので……元気になって良かったです」
……言われてみれば。あの時の俺は確か死んだら楽になれるみたいなことを言っていた。だけど神様と出会って、慈愛神の試練を乗り越えた俺は少し成長したはずだ。今なら頑張れる。
「……ありがとうみんな」
「……別にお礼を言わなくてもいいわ。私達が来たくて来たんだし」
「そうですよ。これは私達の意志です」
……もう一度言っておこう。
ありがとうみんな。
「そういえば和樹はこれから体長が戻り次第帰るのよね? パサラン博士の頼みは終わったんだし」
ふと思い出したかのようにエルシィ王女が言う。
その問いに対して俺は首を横に振る。
「いや、まだ帰らない。実はやらなきゃいけないことが出来たんだ」
「「「えっ!?」」」
この場にいた女の子全員がほぼ同時に声を上げる。なんかまずいこと言ったか?
「その身体でまだ何かするんですか……?」
「駄目ですよ和樹さん! これ以上無理しないで下さい!」
唖然とするフェーネと反対するフィアス。まぁ当然だよな。重症に近い怪我だったしフェーネには俺の精神状態が危ういって分かってるし。
すると今度は今何も言わなかったエルシィ王女が口を開く。
「……それはあなたにとってとても大事なことなの?」
俺の目をじっと見るエルシィ王女。
「……あぁ、とても大事なことだ。今すぐにでもやらなきゃいけない」
早くスティヴィア様から受けた試練を達成したいからな。
するとエルシィ王女は少し悲しそうな表情で言った。まるでなにかを試しているような……
「……それは私達にも言えないことなの?」
「それは……」
そういうわけじゃない。ただ、話の次元が違い過ぎてそもそも信じてもらえるとは思えないから言いたくないんだ。
神様に転移させられてこの世界に来ましたって普通堂々と言えるか?
俺は嫌だ。変な人だって思われるに決まってる。
「私はあなたの話がどんなことでも信じる。……それでも駄目なの?」
「私も知りたいです和樹様」
「私もです和樹さん」
そう言い3人とも俺を見つめてくる。
参ったな……そこまで言われると話さざるおえないだろ。
「……分かった」
俺の答えにエルシィ王女は小さく微笑んだ。少しホッとしているように見える。
俺はみんなの顔を見てそれから大きく息を吸い込んだ。握りしめる手には汗が滲む。
「……俺はこの世界の人間じゃない、神様の手違いでこの世界に転移させられた別の世界の人間なんだ」
声が少し震えつつも俺は言い切る。
「「「っ……」」」
誰もなにも言わず、この部屋に沈黙が流れる。
やっぱり駄目か。そうだよな、こんな話誰が信じ……
「やっぱりそうだったのね」
「え?」
思わず声がした方を見ると今の発言はエルシィ王女だった。やっぱりって……?
「実は私もそんな気がしていました」
フィアスだ。その表情はどこか納得している。
唯一フェーネが2人と違……
「なんででしょうか……まるでストンと下に落ちるような……そんな感覚を今感じています。むしろ出会った時から不思議な感覚を和樹様に感じましたので」
……どういうことだ? フェーネまでその反応をするなんて……
「実はね和樹。私の曽祖父様が子供の頃、この世界に勇者様が召喚されたの。だからあなたの話、嘘だとは思えないの」
「私の母の友人がその方に会ったことがあると聞きます。だから私も同じです」
「ねぇ和樹、これまでの経緯を私達に話してくれない?」
俺はそう言うエルシィ王女を含め、3人に俺がこの世界に転移した経緯とその後を説明した。
神様の手違いでこの世界に転移してしまったこと。
元の世界に戻るには、創造神様の力が必要だということ。
けど、その創造神様の力を借りるには資格が必要で3つの試練を課せられたこと。
「だから俺はこれから試練を受けに行かなくちゃならないんだ」
ここまで言い終え、俺は深呼吸した。
最初に口を開いたのはフィアスだった。
「そんなことがあったんですね……」
「和樹様……」
「待って」
感慨にふけって沈黙する2人がいる中、エルシィ王女はその沈黙を破った。その表情はいつになく真剣だ。
「もし……和樹がその試練を乗り越えたらその……元の世界に帰っちゃうの? もうこの世界には戻ってこれないの?」
「……俺は試練を乗り越えたら元の世界に帰るつもりだ。戻れたらまたこの世界に来たいとは思っているけどそれが出来るかは今の状況だと分からない」
まず無理だと思う。稀に自分の世界と異世界を行ったり来たりしている小説はあるがそんな都合のいい展開この世界にあるわけがない。いや、あるかもしれないがまず俺はそう思う。
再び沈黙がおとずれる。そして次に口火を切ったのはフィアスだった。
「……分かりました。それなら私は和樹さんが試練を終えるまでついていきます」
「えっ?」
「フィアス!?」
「だって、このままお別れしたらもう会えないかもしれないじゃないですか。それだったら一緒についていって試練を乗り越えたその時、ちゃんと別れを告げたいです」
「私もです和樹様!」
フィアスの話にフェーネが同調する。
「エルシィは?」
「っ……私もそうしたいわ。和樹はどうなの?」
うーん、3人がそうしたいなら
「俺は別に構わないけど……」
「ほんとですか!? 良かったですねフィアスさんエルシィさん」
「うん……」
「えぇ……」
ん? なんかフェーネは純粋に喜んでるけど2人はなんか違うような……まぁいいか。
その後、レフールさん達と話をし、俺達はしばらく旅をすることになった。俺は試練、他の2人は冒険という名目で。だが、フェーネは両親の許可(主に父親)がでず、ここに残ることになった。
そしてその日はみんなフェーネの家に泊まり、夜を明かした。
次の日、支度(茶色のコートやブーツなどをフェーネの両親からいただいた)をし、外へ出るとフェーネとフェーネの両親とレフールさんが見送ってくれた。ちなみにレフールさんはこのままナルメドへ行き、今回の報告を兼ねてパサラン博士に会いに行くそうだ。
んで俺はこのまま歩くと思っていたのだが……
「嫌だ! 俺は歩く! 絶対に歩くぞ!?」
「駄目よ! 行き先はマッドレイン帝国なんでしょ? ならここから南に行ってこの森を抜けた先にファボンナ山脈があるんだけどあそこには崖や落石が沢山あって歩いて行くのはかなり危険だわ。だからこの竜に乗るの! 分かった!?」
「キュアアアッ!」
そうだ、だから乗れと言わんばかりに竜は顎で背中にクイクイと指し示す。
「それでも嫌だああああっ!」
実は俺、重症ではないがちょっとした高所恐怖症なんだよ……小さい頃、ジャングルジムで鬼ごっこしてそこで頂上で足を滑らせて頭から……それ以来高いところが……うぅ考えただけで頭が痛ぇ。
ガシッ。その時、誰かが俺の右腕を掴んだ。少し感触は足りないがふにふにしてて柔らかい。横を振り向くとーー、
「和樹さん、私もついています。一緒に乗りましょう?」
「あぁぁぁっ! やめろおおおぉ!」
俺は為すすべもなく竜の背中に乗せられたのであった。




