第2話 可愛くても舐めてはいけない
「えっ……?」
目を覚ますと、辺り一面に草原が広がっているのが見えた。少し離れた先には丘のようなものがあり、そこには大きな木が一本生えている。
あれは夢じゃなかったのか……?
一見、じいちゃんばあちゃんが住む田舎にも見えるが、あまりその実感がない。何せ見渡す限り家とか畑とか何も無い。
「……いや、まさか。きっとどこかの森にいるんだろ」
少し動揺しつつも俺は状況を確認するために携帯を取り出そうとズボンのポケットに手を触れた。
だが、そこに携帯はなく、代わりに手のひらサイズのケースのような物が出てきた。そのケースを開ける。すると中には大量のカードが入っていた。そう言えばこの世界に一つだけ持っていく物を聞かれた時、カードゲームって言ってたな。
その時、あることに気づく。
「なんだこれ……こんなの知らんぞ?」
俺は確か元の世界ではドラゴンのイラストが描かれたカードを1番前に置いていたはずだ。それなのに今1番前に置いてあるのは別のものだった。しかもイラストではなく、何やら蟻のようなシルエットだ。
更に驚くことに、その後ろのカードをめくるとそこには何も描かれていなかった。その後ろも、更に後ろも、そのあと全てが何も描かれていなかった。1枚目のカードにのみ、何かのシルエットが描かれている。
「……どういうことなんだ?」
俺のカードに蟻みたいなカードはあの神様と会うまではなかったはず……しばらく考え込み、やがてある推測が確信へと近づいていく。
あの神様の話は夢じゃなくて俺は本当に異世界に来てしまったのか……?
そうだとしたら今いる周りの様子がどこか違うのも頷ける。
その時、生い茂った草陰から何かがガサガサと動く音が聞こえた。
「っ! ……なんだ?」
ひとまず近くにいた草陰から離れ、その一点を警戒する。
「っ……」
その場で止まり、じっと草陰を見つめる。するとその草陰の中から何かが飛び出してきた。
くりっとした目に小っちゃな尻尾。手足はなく、口からはチロリと舌を垂らしている。
その姿はまるで……
「ツチノコだと……!?」
こいつはめちゃくちゃ珍しくて俺がやってたオンラインゲームでは確か高価で取引されやつ!
やつは俺をじいっと見つめながらチィーと鳴いていた。
よしよし。じっとしてろよ……今すぐ捕まえてやるからな……?
制服を脱ぎ、その服で捕まえる構えをしつつ思わず笑みがこぼれる。
オンラインゲームでは剣などの武器で倒していたが今の俺にそんな芸当ができるとは思えない。あと、武器がねぇ。
とりあえず捕まえることに専念する。
「っ!」
次の瞬間、俺はツチノコに飛びかかった。しかし、相手もそう簡単には捕まらなかった。
「チィーーー!」
やつはなんと俺の制服に捕らえられる寸前に1メートル以上もの大ジャンプを繰り出してきたのだ。
「なにっ! ぬごぉっ」
そして、そのまま俺の顔面に体当たりをぶちかましてきた。
俺はその衝撃によって後ろに倒れ、意識を失った。傍から見ればくっそ情けないやつだこれ……