第1話 ドジな神様との出会い
「ここは……?」
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。何もない。ただ、ひたすら真っ白な色の景色が遠くまで広がっている。
確か俺は家に向かっていたはず。どういうことだ?
夢か? いや、歩きながら寝るとかありえないな。
そんなことを考えていると急に目の前に人影が現れた。
その人は金髪の女性だった。黄色のドレスを見にまとい、頭にはティアラのようなものがある。どこかまだ幼い顔をしており、背も170センチの俺より低い。
「えと……ごめんなさい……私の手違いであなたをこの世界に転移させてしまいました……うぅ」
そう言い、涙目で頭を下げる女性。
「……はい?」
言っていることがよく分からない。あとなんで涙目なんだ。
涙目の彼女をこれ以上刺激せぬよう恐る恐るここがどこか尋ねると、彼女は鼻をススリながら答えてくれた。
「……異世界」
「……はい?」
参ったな。今日の俺相当疲れてるな……
代わりに別の質問をしてみる。
「えっと、あなたは誰ですか?」
するとーー、
「……神様でしゅっ」
「……はい?」
今、なんて言った? しかもこの人今噛んだな。
「……あ〜やっぱ今日の俺疲れてるな」
俺は頭に手を当てる。
「ほんとです! ここは異世界で私は神様です!」
目の前の女性が必死に言う。そう言われてもなぁ……そんなテンプレ、あるか?
どうせ……
「夢なんかじゃないです……」
そう言い、再び涙目になる金髪の女性。まずい。泣きそうだ。
「あの、落ち着いて下さい。分かりましたから」
ひとまず、俺はそう言い、彼女を落ち着かせた。その後、彼女は俺に詳しく話してくれた。
彼女の名はミラシィ。この世界の神様で役職は酒神だそうだ。何故こんなに冷静なのかというと正直俺は今の状況を夢だと思っている。だからそんなに驚いていない。
彼女いわく、ここは地球ではなく異世界だそうだ。何故俺がこんな所にいるのか聞いたところ、ある日こっちの世界の日本酒を目にして、少しだけ飲んでみたいと取り寄せたところ俺と間違えてしまったらしい。……うさんくせぇ。
「……信じてくれないんですか?」
「っ……!?」
まるで俺の意思を汲み取ったかのようにそう言い涙目になる女性。あぁもう! 分かった分かった!
「……それで、俺は元の世界に戻れるんですか?」
どうせこれは夢の中の茶番だと思いつつ夢のノリにのってあげることにして俺は彼女に聞いた。
すると次の瞬間、彼女はサッと俺から目をそらした。
「あの、神様……?」
俺がじいっーと見つめると根負けしたのか、彼女はボソッと呟いた。
「……でき、ません。少なくとも私には……」
「あーうん……」
「絶対信じてないですよね……」
俺は思わずため息をつき、へこむ彼女をなだめるのであった。
……この人、本当に神様?
その後俺は彼女の話を信じているフリをしながら話を聞くことにした。
「この空間はどこなんですか?」
すると神様は人差し指を顎に当て、うーんと考え始めた。うん、この人あざとい。
「んーと、ここはなんて言えばいいかなぁ……天国じゃなくてぇ……えと、あ、そうだ。ここは天界、簡単に言うと私みたいな神様がいる空間」
「……なんか暇そうですね」
思わず口にしてあ、と手を塞ぐ俺。
「ふえぇ……暇だって言われたっ……」
再びうるうると涙を滲ませる神様。俺は慌てて弁解する。めんどくせぇ……
「ごめんなさい! すごくいいところです! 本当です!」
「ほんと!? えへへ……」
パッと表情を明るくする彼女。チョロい……
「えと、君の名前は……」
「斎藤和樹です」
「そうそう! 斎藤和樹君! えと……その……この度は本当に、ごめんなさい」
そう言い深く頭を下げる彼女。そんな彼女の紳士な態度に対し、俺はもはや責める気が失せていた。ま、どうせ夢だし。
「……もういいですよ。誰にでも間違いはありますし、それに、もう終わったことですし」
「和樹君……」
パッと顔を上げ、微笑む神様。あ、今の顔めちゃくちゃ可愛い。
「そういえば俺ってこれからどうなるんですか?」
「えと、今のところ私が飛ばした世界からこの空間に和樹君を呼んでいるだけだからこれが終わったらその世界へ行くことになっちゃいます……」
そう言い涙目になる彼女。
「あぁもう大丈夫ですって! さっきの話、信じてますから! もう元の世界に戻れないんですよね?」
「……ごめんね。少なくとも私には元の世界に戻して上げることが出来ない……その代わりといってはなんだけど……」
そう言うと神様は手のひらにポンっと玉を出現させた。綺麗な虹色の玉だ。
「それは……?」
俺が疑問に思うと神様は答えてくれた。
「これは、属性玉っていってね。これから和樹君が行く世界には火・水・風・土・光・闇・無の7つの属性が存在する世界なの。だから……」
そう言うと彼女は俺の右手を持ち上げ、その手のひらに虹色の玉を乗せた。なんかだんだんこの人が最初に言ってた話に現実味が帯びてきたな。何故か手汗かいてるし。
しばらくすると虹色の玉は光となり、俺の手のひらに染み込んでいった。
「それをあなたにあげる。それがあれば7つの属性全てが使えるようになるからきっとあの世界でも生きれるはず。あとは……読み書きと言語。共通言語っていうんだけど和樹君がいた世界の言葉で分かるようにしておくね」
「いいんですか?」
「いいのいいの。元はと言えば私の手違いだし、それに……」
ミラシィ様は俺にずいっと顔を寄せる。
「私の話、信じてくれたから」
この人、泣き虫でネガティヴだけど可愛くていい神様だな。
そう思うと、先ほどとのギャップのせいか、ふっと笑ってしまった。
「あっ、笑った! よし、あなたのその笑顔のお礼にお姉さんもう一仕事しようかなっ」
「はぁ……?」
そう言うと、神様は俺にある物を見せてきた。
「これは……」
それは、俺がここに転移して来る前に所持していたものであった。
鞄、着替え、筆記用具、ノート、カードゲーム、財布、スマホの7つ。
思わずじっと見ていると彼女は口を開いた。
「この中から“1つだけ”和樹君が行く世界に持ち込めるものを私が頑張って転送してあげるっ! どれにする?」
俺は思考を凝らした。うーん、まず筆記用具とノートは勉強する為のものであって異世界では使わなさそうだから却下。
財布も通貨が駄目だろうから却下。鞄もいらないかなぁ……
すると残ったのはスマホとカードゲームだった。
「おっ、スマホかカードゲームかぁ。いい選択してるね」
2つには絞れた。だが、ここからが問題だった。
スマホ、うーん……ラノベとかで読んでる限りではこれ使えそうだよなぁ。異世界チートで無双出来ちゃいそう。でも、なんか俺はあんまり好きじゃないなぁそういうの。ある程度のものは欲しいけど。あと、その後の展開をアニメで見たことがあるから余計にそう思うのかもしれない。ハーレムは純粋に羨ましいが……
そしてカードゲーム。この日友達と対戦する為に持参したものだ。カードゲームはなんか面白そうという点では勝っている気がする。
確実な方を選ぶか、未知なる物を選ぶか。
ん? まてよ……
俺はふとあることを思いつき、神様に聞いた。
「そういえば俺がこれから行く世界って、召喚魔法とか使えます?」
「もちろん! じゃあカードゲームの方にする?」
「はい。それでお願いします」
「了解! んじゃ、いっくよー! あ、またね和樹君! バイバーイ!」
バイバーイ! その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。この時俺はまだこれが夢だと信じていた。