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運命の出会い

刈茅未菜の両親は、未菜の大人しい性格を心配して、地元の公立小学校へ入学させた。

金持ちの子供が集まる、いわゆるお坊ちゃんやお嬢様が集まるような学校では、とてもやっていけないだろうと判断したからだ。

未菜は見た目も可愛く大人しい性格で、男子から格好の獲物にされるのは、何処に行っても変わらなかった。

小2の頃は、若い女性担任が、親身になってくれたお陰で虐められることもなかった。

さすがに小3にもなると、男子は女子を虐め始める。

子供の馬鹿な愛情表現ではあるのだが、えてして可愛い女の子が標的にされる。

それを心配して2年の若い女性担任は、3年生の年配女性の担任に十分な引継ぎを行っていた。

教師歴も長いだけあって、クラスの雰囲気など1日で把握する事が出来る。

「確かにアレじゃあ、虐めの標的になりやすいわね。」

さて、どうしたものかと年配の担任は考えた。

クラス名簿を見ていると、ある1人の生徒の名前が目に止まった。

井伊千鶴。

もしかして井伊先生の?

年配の担任教師は、数年前に亡くなった中学の校長先生の名前を思い浮かべた。

気になった担任は、2年時の男性担任に話を聞いた。

「ああ、井伊ですか?まじめでいい子なんですが・・・。」

「が?」

「正義感が人一倍強くて、その・・・。」

何とも歯切れの悪い男である。

「どういう生徒なんですか?」

年配の女性教師は、強く聞いた。

「ぶっちゃけていうと、クラスのドン的な感じで。」

その日、注意深くクラスを見ていると、井伊千鶴と2年時同じクラスだった男子が、人並み以上に大人しい事に気づいた。

「理由はよくわからないけど、しっかりはしてるようね。」

担任は、井伊千鶴に未菜の面倒を見て貰う事に決めた。


「井伊さんのお婆様は、なぎなたの道場をやってらっしゃるかしら?」

「はい。」

担任は千鶴を呼び出し二人で話をした。

「井伊さんも、なぎなたをやってるの?」

「いえ、私は剣道をやってます。」

小学3年生だというのに、物怖じもせず、ハキハキと答える千鶴。

クラスで一番小柄だったので、担任は一瞬戸惑ったものの、その威風堂々とした雰囲気に安堵した。

「実はお願いがあるのだけど。」

担任は、千鶴に未菜の面倒を見てやって欲しいとお願いした。

3年生にも、なると担任が特段に目を掛けたりすると余計に虐めを助長しかねない。

長年の経験から、担任はそう学んでいた。

「わかりました。」

千鶴は小気味好い返事をした。


「未菜ちゃん一緒に帰りましょう。」

未菜は、クラスで一番小さい女の子に声を掛けられた。

見た目は可愛いのだが、とても断れそうにない雰囲気をもっている。

「う、うん。」

小さく頷いた。


「実は帰りに寄るところがあるのですが、少しの時間いいですか?」

二人で帰り道を歩いていると、途中で千鶴が言った。

寄り道は、よくないのじゃないかと思ったが、断れる雰囲気でない。

「う、うん。」

未菜は小さく頷いた。


千鶴の祖母は、昔ながらの屋敷と道場に一人で住んでいた。今更、息子や娘の世話になる気はない。

ちょうど千鶴の家と学校の途中にある為、千鶴はちょくちょく祖母の家を訪れていた。


「お婆様、ただいまです。」

「おかえりなさい。あら、お友達?めずらしいわね。」

祖母が優しく出迎えてくれた。

「今度、同じクラスになった未菜ちゃんです。」

「は、始めまして。」

未菜の声は小さく弱弱しかった。

「いらっしゃい、ゆっくりしてってね。」

千鶴の祖母は、未菜の目線までしゃがんで優しく言った。


千鶴の祖母、千勢の道場は薙刀の道場だった。

祖父が健在の頃は、剣道も教えていたが、そもそも井伊家は薙刀の家系で、祖父は婿養子だった。


千鶴はいつも道場で、素振りをするのが日課になっていた。今日も、未菜の事は、お構いなしに堂々と素振りを始めた。

「ごめんなさいね。」

千勢は、未菜にあやまった。

二人は、お茶を飲みながら時間を潰した。

「そういえば、千鶴。警察の道場はいつなの?」

千鶴は、剣道で警察の道場にも通っていたのだが。

「あっ。忘れていました。今日でした。すみません未菜ちゃん、ここから一人で帰れますか?」

こくりと頷く未菜。

未菜が頷くのを確認すると千鶴は道着のまま出掛けて行った。

「あの子ったら、未菜ちゃん、あとで私が送っていくね。」

優しく言われた未菜は、こくりと頷いた。


千勢は、大学生になぎなたを教えており、この日も8人の女子大生が道場を訪れた。

8人は、N大のなぎなた同好会のメンバーだった。

「可愛いい。先生のお孫さんですか?」

女子大生に可愛がられる未菜。

悪い気は全然しない。

「いえ、孫の友達よ。」

「可愛い、何年生?」

照れながら三本の指を立てる未菜。

その仕草がまた女子大生のハートをくすぐった。

この日は、女子大生にちやほやされ、幸せな時間を過ごすことが出来た。


次の日から、道場に置いてけぼりにした事を反省し、千鶴は、まず未菜を家に送って行き、道場へ行く事に決めた。

が、未菜の強い要望により、ルートを変更する事はなかった。


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