刈茅未菜はお嬢様である
刈茅グループと言えば、日本でも有数の大企業で、そのトップは、代々女性が務めてきた。
そんな一族の令嬢として、生まれてきた未菜は、幼少の頃から、よくパーティーに出席していた。
人見知りの未菜は、同じ年頃の男の子の後ろを、ずっと着いて歩いていた。
「あの子も駄目ね。」
そんな、未菜の姿を見ながら、現刈茅グループのトップは、ため息をついた。
「姉さん、未菜の事を悪く言うのは、やめてくれないか。」
未菜の父親が、姉に言った。
「刈茅の才女って、勝手に生まれてくるものだと思っていたけど。私の代で、終わりかしら?」
「そんな事を言うなら、自分で子供をつくればいいじゃないか。」
「私の産休中、誰がグループを見てくれるの?」
姉の言葉に、未菜の父親は言葉を逸した。
「未菜ちゃんの伯父さんに挨拶に行こうか?」
未菜と同い年の大和祐樹は、未菜にそう言った。
未菜は何も言わずコクリとだけ頷いた。
二人はホテルのパーティー会場を出て、隣にある仮設キッチンへ向かった。
仮設キッチンで、指示をしていた料理長が、子供二人の姿を見つけて寄ってきた。
「祐樹君、いつも未菜ちゃんの面倒を見てくれて、ありがとうね。」
料理長は、大和祐樹に優しく微笑んだ。
「おじさんの料理凄く美味しいです。」
「ありがとう。未菜ちゃんも食べてくれてる?」
伯父に言われて、未菜は、コクリと頷いた。
未菜の伯父は、普段はイタリアンの店をやっている。
刈茅が主宰するパーティーでは、料理長を任されたりもする。
刈茅グループのトップの旦那という事もあり、パーティー中でも、キッチンへ挨拶に訪れる人が多い。
「祐樹君、さっきお父さんも挨拶にこられたよ。」
「何か挨拶に回ってて、忙しいみたい。」
大和グループは、刈茅グループのような大企業ではないが、祐樹の父が一代で築き上げた一部上場企業である。
祐樹は三男な為、自由奔放に育てられていた。
「一鈴ちゃん、本日はお招きありがとう。」
「これは、大和社長、いつもありがとうございます。」
「これだけ豪華な顔ぶれが集まるんだ、刈茅も後200年は安泰だね。」
そう言って、祐樹の父は豪快に笑った。
「どうでしょう、私の代で終わりそうですよ?」
「何、言ってるんだい、姪御さんだけでも4人も居るんだろ?」
「小粒揃いですがね。」
「未菜ちゃんなんて、祐樹と同じ年じゃないか。まだまだ、これから成長していくよ。」
「大和さんの所は、3人も男の子がいて、大和グループこそ安泰じゃないですか?」
「うちは、駄目だ・・・。育て方失敗した。長男次男は勉強させ過ぎた。」
祐樹より、年の離れた兄達は、子供の頃から英才教育を施した為、世に言う頭でっかちに育ってしまった。
「それこそ末っ子の祐樹君に。」
「プロ野球選手になるそうだ。」
「まあ。」
一鈴は笑った。
決して、祐樹の夢を笑った訳ではない。
子供らしい夢に微笑ましくて笑ったのだった。
「まあ三男坊だから、自由に育てるさ。」
歳をとってからの子供の為、余計に可愛がった。
「一鈴ちゃんも、姪御さんたちに、あまり完璧を求めすぎないようにね。」
大和グループの社長は、一鈴にそう忠告した。
とは言うものの、刈茅グループがここまで大きくなったのは、刈茅の才女と呼ばれる歴代の女性たちのお蔭である。
刈茅の家に生まれた女性が二人も居れば、どちらかはその才覚が備わっているものだが、一鈴の姪っ子たちは大人しい女性ばかり。
一鈴の弟と妹は、グループ企業の社長か副社長を務めており、その家に生まれるという事は、お嬢様であるのだが。
自分は金持ちのお嬢様と気取った女性も居ない。
いいお嫁さんにはなりそうだが、とても刈茅の家をしょって立つような性格ではない。
「もう次の代に期待するしかなさそうね。」
一鈴は、ため息をついた後、決心した。
甥っ子、姪っ子が刈茅の才女を産むまで頑張るか!と。




