共通シナリオ2 狭間
「ちょっと待って、これヤギサバとかツナサラとかみたいな現代人が異世界にいく系?」
「なんというかここって……」
――――市松模様の床、薔薇やウサギ、豪華なテーブルがある。
まるでアリスのようにメルヘンチックな場所だ。
「よく来たな人間」
この空間に似つかわしくない灰色の髪をしたオリエンタルな格好の男性が玉座に座って現れた。
「ティーピーオーって知ってますか?」
電車の人が謎の男にたずねた。
「ちょ、紫雪さんまずいって」
クラスメイトくんが焦りながら止める。
「これは別に吾の趣味ではない。そんなことよりも、なぜここに来たかを知りたくはないか?」
「はいはい、なんでですかー?」
私が尋ねると男は嬉しそうに頷く。
「お前達は神に選ばれたのだ」
男は腕を降り、ドヤ顔で華麗にきめた。
「へーじゃあマジで私達ゲームの主人公とその仲間たちになった系なのか」
「ふーん」
ゲームみたいな話だなあと楽観的にそう思うった。
「はあああ!?」
柘榴はまともな反応をした。
「ふむふむ、ただの人間のお前達が驚くのも無理はないな」
「驚いてるのは彼だけみたいですけど」
放心中の柘榴を覗いて私達は話を聞く。
「まず初めに名のってやろう。吾はこの狭間の世界神だ」
「神……」
神が攻略できるゲームはあるっちゃあるがまだ買っていない。
この人結構イケメンだし元の世界に帰ったらフリゲのネタにしよっと。
「というかお前達、まともな人間じゃないな。普通ならば家に帰せと泣きわめくところではないか?」
もっともらしい事をよりによって人ならざる方に言われるって皮肉とかいうやつ?
「あれでしょ、僕らが世界を救わないと元の世界に帰れません系」
「時間は異世界にいるときの一秒にも満たない系はよくあるしなあ」
二人は普通に男子ならあるゲーム知識で冷静に語りはじめる。
「まあいい。なぜこの世界に選ばれたか知りたいか?」
「キャラが立ってたから?」
たしかに私達はゲーム好きの紅一点、根暗ゲーマー、世話焼き弟など個性的でゲームキャラにはもってこいだと思う。
「大体そのようなものだ」
「で、俺達はここで何をするんだ?」
クラスメイトくんがたずねる。
「お前達が大好きなゲームだ」
「私達の好きなゲームって……」
好みは違うし皆が同じように好きなゲームジャンルではない。
「ギャルゲーに3Dは求めてない」
「リアル格ゲーとか嫌なんだが」
「攻略キャラがリアル系とか嫌だなあ……」
そして柘榴はゲームをしてないから呼ばれた意味がないと思う。
「まずはこの男に説明させるか」
「やあやあ皆さ~ん」
シルクハットにタキシードの若い男が現れた。
「貴方は?」
「ワタシはディーラーのラグリスさ~」
美形だが変人キャラの感じで私の好きな王子タイプとは違う。
「……なんで俺達が異世界でゲームをするんだ。そもそもやらされるゲームはなんなんだ?」
柘榴が問い詰めるとラグリスはそうですね。と語り始める。
「単刀直入に言えば君達には今から強者と弱者のチェスをやってもらいます」
「チェス?」
よく知らないが将棋のルールとよく似ていて、敵から奪った駒を使えるか使えないかくらいの差のあるボードゲームだ。
「僕らが駒にされて戦うとか?」
「いいえ、貴方は戦いの指揮者です」
―――よくわからないが参謀とか?
「じゃあ俺達が敵とチマチマした駒を使って殺しあうのかよ?」
クラスメイトくんがたずねるとラグリスはうなずいた。
「ばかばかしい……なんでそんなことやらなきゃなんないんだ」
柘榴は不機嫌になる。
「おや~君はゲームをしない人ですねぇ……判定機の手違いのようなので帰ってもいいですよ」
ゲーマーかそうでないか判断できる装置、すごいけどいらない機能だ。
「姉ちゃん帰るぞ」
「彼女はダメです」
ラグリスはにっこりと諭すように言った。
「ゲーマー女なんて他にもいるだろ。姉ちゃんが危ないことというか、チェスなんて頭使ったやつやれるわけないだろ」
「そうだけどせっかくの異世界なんだし王子の一人や二人に会わずして帰れるかー!」
申し訳ないけど柘榴には先に帰ってもらおう。
「帰還装置は常に元いた場所に繋がってはいる。しかし1戦勝たない限りエネルギーが足りない。お前達の世界の人間50人の命が必要となる」
「へ?」
―――つまり私達が帰れば知らない人間が50人死ぬ?
「帰るならば男達は帰すが、神から最も理想の人間とされたお前には残ってもらう」
その言い方はまるでこの人じゃない神がいるみたい。
「ところでゲームに負けたら死ぬのか?」
「記憶を消して元の世界に還すことは約束しよう」
「死なないっていうなら、せっかく異世界にこられたんだし帰るわけにはいかないよね」
「けどなんかレアアイテムないのか?」
そういえばなんで私達が戦う必要があるのか、勝った場合に利益があるか言われていない。
「このゲームに勝てば、君達の想像する火星よりもすごい楽園にいけるのさ~」
「単刀直入に、金はもらえないのか?」
「なら私は新作ゲームがほしい」
「僕は新型のPCを」
皆は口々にほしいものを言った。
願いを叶える系なんてアニメだとヤバい事に巻き込まれてるパターン。
「ヤバいって願いを叶えた代償が魂とか命とかロクなことにならないだろ」
「でもさゲームクリアしないと誰かが死ぬらしいよ?」
別にそこまでして今すぐ帰りたくはない。
「なんだよそれ……無事に帰れるなら50人くらい安い命だろ!」
柘榴はなんて恐ろしい事を言っているんだろう。これが私と長年そばにいた弟の言葉なんて信じられない。
「娘、奴を責めるな。奴のそれこそ普通の人間らしい判断だぞ」
普通の人間なら見知らぬ場所に来たら帰りたがり、犠牲がいくらいても自分だけは助かりたいと考える。
しかし帰れるのがわかっていながら、わざわざ犠牲をはらってすぐに帰るなど馬鹿なこと、簡単に言えばマシュマロを我慢したら増えるみたいなもの。
一時の食べたさでマシュマロ一つを食べるか我慢して二つ食べるか、我慢した分を多く貰えるならそっちが特だ。
「そりゃブサメンだらけなら私はすぐ帰ってたけど……」
「わかったよ……そうと決まればガンガンいくぞ!」
柘榴はさっきと違い物わかりよく先陣をきった。
●
「私は宝貝碧奈。彼とはクラスメイトで~」
ゲームをする前に皆と自己紹介タイムだ。
「宝貝柘榴、中学生です」
「僕は雨瓦紫雪。普段はショップのバイトをしているんだ」
「ショップ?」
言われてみれば服はおしゃれだ。
「俺は豈透俊紀、宝貝姉とはクラスメイト。紫雪さんとはまあ親戚だ」
「あ、もしかしてあの豈透くん?クラスの女子がよく騒いでたよ!」
そっけないとか無愛想なのがいいとか、言われてみればぶっきらぼうなところがベタな少女漫画のヒーローぽい。
「まあ珍しい名字だから学園の男に関しては俺だろうな。大学にいる兄貴も地味眼鏡だけど目立つって言ってた」
「へえ」
その口ぶりだと女にもいるって言いたげだ。
「雨瓦さんも珍しいですけど」
「そうだねー本家の人は独身の一人息子らしくて、存続が危ういんだ」
「まさかその一人息子ってオチじゃ」
「……残念だけど僕は分家だよ。本家の人は髪が鮮やかな雨色……水色でね。他は普通に黒か茶なんだけど、僕は生まれつき白くて」
紫雪さんはどう目をこらしても水色ではないし真っ白だ。
「ああ、もしかして白雪姫みたいな感じですか?」
「たぶんね」