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タイムリミット  作者:
美雪
5/5

タイムオーバー

雪だるま視点

 雪だるまは行っちゃったっておばあちゃんから聞いた。春になるからだとかなんだとかもっともらしいことを言ってたらしい。ああ、だから様子がおかしかったのかなあ、なんて、何故だかボロボロとこぼれる涙をタオル地のハンカチで拭いながら、どこか冷静にそう思った。


 嘘つき。そうとも思ったけど、別に雪だるまは私にそう罵られるようなことはしていないし、言っていない。私が勝手に、いつもちょっと寂しそうな顔で見送るおばあちゃんの隣には、これからずっと雪だるまが居てくれるものだと思ってたんだ。だって、雪だるまだから。雪だるまなんかどこにも行くところなんてないと、そう思ってたから。


 雪だるまのくせに、いつも余裕綽々な顔して、意地悪そうな笑顔で、やけにスキンシップが多くて。……雪だるまの、くせに。


 心臓に悪いほど綺麗な顔を思い出しながら、ガタガタと揺れる、滲んだままの景色だけを見ていた。


 古いバスの車内には、私以外の乗客はいない。だから二人掛けの通路側の席に大きな荷物を置いて、贅沢に座っている。駅までは、まだしばらくかかる。そういえばショッピングセンターに雪だるまの買い物にも行ったっけ、なんて思い出してみて、また目頭がジンと痛んだ。あの日は車内が暑いくらいだったのに、今日はやたらと寒い。だからきっと、やっぱり、空調が壊れてるんだと思う。


 ――美雪に魔法をかけてあげる――


 昨日。強く目を瞑った私の頬に、柔らかくて冷たいモノが当たった。何事かと目を開けると、近すぎる雪だるまの綺麗な顔で「美雪には、おばあちゃんがいるから」と、一瞬だけ抱きしめらた。そう、一瞬だけ。


 そしてすぐに離れて、どこか切なくなるような顔で笑った。


 何をされたのか理解した私は、頭で考えるより先に体が動いた。私の右手は雪だるまの顔めがけて飛んでいった。


 と言っても、人なんて殴ったことはないから、平手打ちではなく、雪だるまの鼻を強打するような感じになってしまったんだけど。


「おばあちゃんがいるから、か」


 ため息みたいな声が出た。雪だるまにも居て欲しかったなんて思う私は、きっと少しおかしいんだと思う。









 帰ったら、真由子のところに行こう。あやまって、ゆるしてもらえたら、いっぱい色んな話がしたい。


 ゆるしてもらえないかもしれない。私のごめんなさいは届かないかもしれない。


 でも、何があっても、私には帰る場所があるんだ。おばあちゃんだけじゃない、きっとお父さんやお母さんもいるんだもの。ねえ、雪だるま。そういうこと、なんだよね?


 なんにも解決なんてしていないけど、でも。


 でも、ねえ、雪だるま。雪だるまの魔法にかかったんだよ、私。


 そのうちバスは終点に着き、現実の重さを担いで、私は家へ向かう列車に乗り込んだ。雪は、もうどこにも残ってはいなかった。


タイムオーバー(意味:時間切れ)/ 了


タイムリミット 完

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