073 未来は分からないから希望も持てる
希望を持たなければ人生を上手に渡って行くのは不可能だと、最近のチビは思うようになっていた。契約更改で来季の座を維持したのはいいとしても、年俸は190万円と2軍選手の中でも最低値を叩きだしていた。オーナーからは「2,3年で結果を出してもらわないとな」と事実上の期間を与えられたので、なんとか技術を高めて1軍の地を踏めるように努力する必要がある。だが、そう簡単に技術が向上する可能性は低いだろうとチビ自身も感じ取っていた。元々、他の選手とは体のバネがまったく違うので相当な技術がなければこのハンデを撒き返すのは至難の業であろう。どう考えてもチーターやゴリラなどの潜在能力の高い人化選手とは比べ物にならない程の運動能力の差が開いている。アウトローな野良猫には厳し過ぎるハンデに内心くじけそうになったが、それでも希望がある限り諦める心は持ち合わせていない。希望を胸に秘めているからこそ、まだ見えぬ未来に向かって前進を続けられるとチビは思いながら、ひたすら最高の自分を追い求めて努力と練習を続ける。他の2軍選手が初詣に行っている間も彼だけは球場に足を運んで守備練習やバッティング練習に励んでいた。無論、誰もいないので一人で練習をしなければならない。バッティングはまだマシだが、守備練習になると誰もいないファーストに投げなければいけないので孤独感が更に増していく。
それでも練習を続けるのは、どんなに落ちこぼれの人間でも正しい努力をすれば1軍で活躍が出来ると過去の選手達が証明しているからだ。彼の崇拝しているAKIRAも、野球を始める前は足だけが取り柄の単打ヒッターだと言われている。ところが彼は周りの人間の意見を跳ね返して、今では21世紀最高の5ツールプレイヤーとして教科書に載る程の活躍を見せていた。そんな過去の選手を見ていると、まだ見ぬ未来にも希望を持てるのだった。




