064 来季の目標
来年に向けて目標を設置するのは大事だと、ミラベルから教えられたチビは部屋の中に引きこもって筆をかき鳴らしていた。やはり新年の抱負は書道で決めるのが日本男児のテンプレだと感じたチビは少ない小遣いを使って、わざわざ書道の道具一式を買っていたのだ。2軍の選手はとてもじゃないが給料は良いとは言えないので、書道の道具を買うだけでも生活費の大半を削られた。しかし、金よりも大切な事が絶対にあるとチビは確信しているので、生活費を溶かそうが溶かまいが、そんなの関係ない。どうすれば自分が納得できるかを最優先に考えているからこそ金が全てという邪悪な心を持たずに生きていけるようだ。それに野良猫時代の貧乏暮しを体験していたら少々お金が無くても大丈夫のようである。
「あーでもない、こーでもない……そうでもないっ!」
書き損じの半紙をくしゃくしゃにまとめて、ゴミ箱に投げつける時間が圧倒的に増えていた。そしてプロ野球選手という事もあってか、投げた紙くずは百発百中でゴミ箱に入るのだから恐れ入る。そもそもチビの守備力は1軍でも通用する程なので、送球には問題を抱えていないのだ。ただ、打撃が壊滅的に悪いのが問題なだけあって、バッティングが良くなれば何とか活躍の場を見つけ出せる。
ということで、チビは打撃関係の目標を立てようと必死に考えているが、これが中々上手い事いかないので髪の毛を掻き毟る動作が徐々に増えていた。集中力も段々と悪くなって、最終的にはぶっ倒れてイビキをかきそうだった。それでも寝ぼけ眼を擦って机に向かう様を見ていると、早寝早起き教の人からすれば哀れに思えて仕方がない。夜型など人間の構造を知っていたら有りえないにも関わらず、人は徹夜をするのだから困り者である。




