062 屋台で忘年会
人として成長するためにはどれだけ努力してきたかというのが大事ではないかと、最近のチビは思う様になっていた。もしも努力を一切せずに現役選手として活躍できたとしても、ハッキリ言って充実感はまったく感じない筈だと今のチビには容易に予想が出来る。誰よりも努力したからこそ自信を持って打席に立つことが出来る。これだけ練習の日々を過ごしてきたんだと、胸を張ってバットを振れる。努力をするだけで精神が揺さぶられるように鼓動するからこそ、練習努力は大切なのだと分かってきた。たとえ最終的に技術や体力が身につかなかったとしても、やるだけの事はやったのだから満足したという気持ちになれると確信を持って言える。しかし、もしも練習を怠っても中途半端に活躍して中途半端に引退するようであれば「もっと頑張れば良かった」という後悔の念に囚われてしまう危険性だってあるのだから、苦労して練習をしたという行為自体に意味があって、未来の自分を支えてくれる要因の一つになるのは言うまでもない。
「たとえ1軍に上がれなかったとしても、野球選手としてプレーできた事に誇りを抱きますよ。だから僕はこれからも日々の鍛練を忘れずに頑張ります」
ミラベルとチビは忘年会に来ていた。と言っても、ここはレール下の寂れたおでん屋さんであり、忘年会というのは少し物足りない気がする。しかし両者がこの店で忘年会をしようと思ったのは理由がある。それは阪海ワイルドダックスの英雄、AKIRAが惜しげもなく通った店の一つであるからだ。少しでもレジェンドのパワーを吸収して次なる目標に向かってチャレンジしたいと思っていたからこそ、この店を選んだのだ。それにこの店は他の2軍選手を差別的に扱う店とは違い、1軍選手だろうが2軍選手だろうが歓迎してくれる唯一の店なので、二人とも満足している顔でおでんを突いていた。




