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060  フィールドに立てば誰も助けてくれない


 納得して野球をするのはかなり難しいのだと、最近のチビは特に感じていた。誰しもが不満を胸に抱いて野球をしているのだろうが、特に自分が一番不幸なんじゃないかと錯覚する程の空しさと寂しさを感じてしまう。本当はそんな筈ないのにどうしても自分ばかりが不幸な目に遭っているような感覚を胸に抱いてしまう。その理由はやはり2軍での打率が.188という目も当てられない打撃成績になっているのが要因となっていると自分自身でも分かっていた。このように、人は目に見える打撃成績に注目しがちで、気分を落としてしまう選手はこれまでに何人もいたのでチビだけが例外という訳ではない。皆誰しもが不平不満を胸に秘めて生きているからこそ、面白いのだ。


「どうすればヒットを打てるようになるのでしょうか」


 食堂で冷たい弁当を食べながら、ミラベルに話しかけた。他の誰よりも濃密に練習努力を重ねているにも関わらず、打率がまったく上昇しないことに不安を抱いていた。昔はそれでも「まだ大丈夫」と前向きに考えられたが、最近ではもうそれも限界が近づいていた。「なんで僕だけヒットが打てないんだろう」という感覚が脳内や心の中を這いずり回って、練習に集中出来なかった。それでも時間のある限りはがむしゃらに練習をした理由は、やはりAKIRAの影響があった。彼ほどの天才打者が常軌を逸した練習を毎日のようにしていたというのだから、自分のような凡人はもっと練習をしないと上にはいけないという考え方が目覚めて、最終的には雨の日も風の日も関係なく努力を積み重ねようと意識をしていたのだが、どんなに頑張っても成長出来ない自分に焦りを感じてしまっていた。するとミラベルは一呼吸を置いた後、いつものようにハッキリした声でこう言うのだった。


「私から教えてあげられる具体的な方法は何も無いわ。打席の中で自分でどんな球を打つかイメージをしないといけないからね」


 ようするに、一度フィールドに立つと誰も助けてくれないという意味なのだろう。チビはそう解釈をして確かにそうだと、妙に納得するのだった。



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