006 愚かな生活リズム
こうして、AKIRA像の近くに設置してあるベンチに座った二人は、肌と肌と触れ合いそうな至近距離にまで迫っていた。女性経験がまったくないチビにとっては、かなり美味しいシチュエーションでもある。一体この後、何を言われるのか期待で胸がはち切れそうだ。有り得ないが、もしも告白なんてされたら顔を真っ赤にして小躍りする自信はあるぐらいに。
「ねえ、最近異様に疲れてない?」
彼女が開口一番に放ったのは心配の声だった。確かに彼女の言う通り、最近のチビは心身共に疲れ果てている。毎晩夜中まで練習をする。しかも上達しているのかしていないのか、判断できないので「ひょっとしたら時間の無駄じゃないか?」と考える時もある。そのおかげで、中々心身が休まらない。
「はい。確かに疲労感が体にのしかかっているような感じです」
チビは自分の肩を揉みながら素直に答えた。最近疲れがとれないのだと。
「もしかしたら寝る時間が減っているとか?」
またしても彼女の言っている事は的確だ。彼女の言う通り、チビの睡眠時間は極端に減っている。その理由は徹夜で本を読んでいる事である。
「そうなんですよ。最近夜遅くまで練習してるから趣味に使う時間がなくて……それで睡眠時間を削って本を読んでいます」
チビはそうだと言った。
「それはダメね。趣味のために睡眠時間を削るのは愚かよ」
だが、ミラベルはそうだと言うのだ。
「ええ! そうなんですか!」
「だって徹夜をすればするほど、ストレスが溜まりやすい性格になるわ」
そうなのだ。睡眠不足で自律神経が崩壊し、やがて精神的に弱い自分が出来上がる。それは擬人化された猫だろうが普通の人間だろうが変わりない。
「初耳です」
と、猫耳をピクピクと動かしながらチビは頬を赤らめていた。なんせ自分の知識が至らなかった事が恥ずかしくて仕方ないのだ。
「本当に徹夜だけは駄目だからね。朝方は大丈夫かもしれないけど、昼間から夜にかけて地獄を見るわ……あの恐ろしい体験を若い頃から感じていたら廃人になっちゃう」
ミラベルはそこまで言うのだった。徹夜を繰り返せばやがて精神が完全に崩壊し、待っている未来は廃人だと。