055 早朝にこそ成功の秘訣が眠っている
早朝、皆が寝静まっている時間帯にランニングをするという日課を決めてから早くも2か月が立とうとしていた。その間はどんなに疲れていても、どんなに天候が悪化していても同じコースを同じ時間で走っていた。何故チビがここまでランニングにこだわるのかというと、それは強靭的な下半身を作りだす事だった。まず打撃で強力なインパクトを発生させるための絶対条件は安定した下半身なので、チビはランニングで足腰を鍛えようとしていた。まず、チビのような低い身長で体重の軽い物はいくらボールをバットに当てようとも前に飛ばないケースが当たり前のようにおこる可能性が高い。だからこそ、そうした意味で下半身を鍛える事によって少しでも打球を前に飛ばそうと考えているのだった。
チビが理想としているAKIRAも下半身の強さには定評のある選手だった。恐らく、擬人化された今の野球選手と比べてもトップクラスの強さを誇っており、まさしく人間離れした強さがあったと言われている。そんな伝説的なプレイヤーに少しでも近づくために、チビは嵐の日も竜巻の日も、こうしてランニングで出かけるのだった。其れ故に、この程度の雨ならばどうってことないのだ。
しかしそれよりもチビが気にしているのは、隣でミラベルが走っている事だ。1軍で2000本を放った伝説的内野手と一緒にランニングできるのは凄く光栄な事であり、チビは性的興奮よりも、野球選手としての興奮が勝っていた。確かに彼女には異性としての恋心も抱いているが、同時に野球選手としての尊敬の念もあるのでこの場合は後者が勝ったという訳だ。
「まさか、ミラベルさんも毎朝ランニングをしていたなんて、驚きです」
本当にその通りだ。1軍で結果を残したミラベルが今更、早朝ランニングを日課にしていたなんて今でも信じられないぐらいだ。しかし、それぐらいの練習量が無いと1軍には上がれないという証拠なのかもしれないと、チビは内心そう思っていた。
「もう生活の一部になってるわ。なんてったって子供の頃から続けてるもの」
なんと、このランニングを子供の頃から続けているというのだ。これにはさすがのチビも度胆を抜かされて心底驚いていた。
「もしかして、毎日ですか?」
恐る恐る聞くと、ミラベルは首を縦に振っていた。
「ええ。朝の3時に起きて毎日ランニングを続けているのよ。今日はたまたまオフだったから寝坊しちゃったけどね」
寝坊と言ってもまだ朝の4時30分だ。常人ならば一番熟睡している時間帯である
「ど、どうりで時間が合わない訳ですね」
あまりにも意識力が違うため、チビは顎が外れんばかりに吃驚していた。




