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054  雨の日も風の日も


 しかし、マスコットキャラクターであるのはチームのムードメイカー的ポジションと同等と考えられるので、考え方によってはチームを支えるだけの力を持っている。だが、チビが憧れているのは不屈のリーダ性を持った屈強の男なので、将来的にムードメーカーになるのはあまり好き好んでいなかった。と言ってもそんな心配をするのは時期尚早であり、まずは目先の技術を向上させないと意味が無かった。チビが良い成績を残せないのは野良猫を擬人化させたからという理由だけではない、過酷な2軍生活のスケジュールに耐えるだけの体力が残されていないのだ。試合の時間よりも移動時間の方が長い事もたまにあるぐらいだから疲労感は溜まってしまう。ただでさえ成績が伸び悩まずに劣等感を感じているのに、この期に及んで更に成績が落ち込む要因を作っているのは自分でも虚しさを覚えるほどだ。他の選手は元気に渋谷に繰り出して綺麗な姉ちゃんと遊んでいるのも多いのに、チビはヘトヘトになりながら一人で練習をしている。やはり皆よりも才能が無いというのは余裕が無いのと同じ事であり、その余裕を作るために必死に努力を続けているのだが努力しただけで活躍出来るのであれば今頃1軍にはスーパースターが溢れかえっているだろう。そういう意味ではやはり1軍で活躍するためには技術を向上させるための努力だけではなく、自分の精神状態を上向きにする努力も必要だという事だ。


「雨は嫌だな……」


 そう言いながら、チビは子供用のレインコートを被ってランニングに出かけた。この日はせっかくのオフだというのに、雨音が激しい日になってしまって思わず憂鬱な気分になる。本当はこんな朝っぱらから練習などしたくないのだが、それでも自分は人とは違うという劣等感があるため練習を怠るのは御法度だった。現に、寮にいる先輩達はグーグーとイビキをかいて寝ているぐらいだから、こんな朝からランニングに出かけるのはチビぐらいだろう……そう思っていた時、


「おはよう。チビくん」


 隣からラベンダーのような良い匂いが漂ってきたと思うと、隣にはミラベルの姿があった。彼女もレインコートを着ていて何処かに出かける様だ。


「おはようございます。本日は生憎の雨ですね」


「それで、チビ君は何処に行こうとしているの?」


「僕は今からランニングをしようと思っています。ミラベルさんは?」


「奇遇ね。私もよ」


 そう言うと、ミラベルは可愛らしくウインクをしていた。



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