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040  スランプ脱出の兆し


 チビのバットがついに火を噴いた。1回表の攻撃、相手投手から放たれた150キロの直球をセンター前に悠々と跳ね返す。今までなら余裕で詰まった当たりになっていたのだが、ここにきてスランプ脱出と共に技術も少なからず向上したようだ。これにはチビも嬉しさを堪えきれずに笑顔を零していた。プレー中に喜怒哀楽を表現するのは精々高校生までだと勝手に思って。これまでチビはマウンド上で一度も笑顔を見せた事が無い。ところが、スランプ脱出の糸口を掴んだ事と技術的にも進歩したのだなと自覚する事で次元を超えた嬉しさがこみ上げたのだ。


「よし、よし!」


 しかし、ここで嬉しさを爆発するだけではプロとして失格だ。次の塁にどうやって進むのか考えなくてはならない。もしも浮かれている時に牽制球がきてアウトになったらもう恥ずかしくてたまらないだろうから。そしてチビは自慢の足を生かして盗塁を試みようとする。相手捕手は2軍選手と言えど、動物を擬人化させているのには変わらない。肩は信じられない程の速さを誇る筈だ。それに、相手投手も速球派なので盗塁を決められるチャンスは限りなく少ない。残された選択肢は速度の遅い変化球を投げた時に走るという一点だ。


「!」


 相手投手のボールの握りが見えた。幸運にもそのボールはスローカーブであり、盗塁するにはもってこいだった。チビも迷わず走り出す。距離で言えばかなり短いが、二塁までの距離はそれよりもズッと長く感じる。


 捕手からの返球とほぼ同時のタイミングでチビは二塁に到着した。土煙が舞う中、足元を見てみると寸前の差でチビのシューズが二塁にタッチしているではないか。これを見た審判も「セーフ」とコールし、ホッと無でを撫で下ろして安堵するチビだった。



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