039 誰のために努力するのか
そんな訳で2軍戦は昔よりも多く組まれている。人気がある事は嬉しいが、それでも1軍戦よりも試合数が多いのはかなり肉体的に辛い。それでいて移動が尋常じゃなく多いのでアメリカのマイナーのような過酷さになっていた。だからこそ、2軍選手のほとんどは息抜きにと夜のクラブやキャバクラに消えていくのだ。しかし、チビは絶賛スランプ中だったのでそんな真似は出来やしない。それに、2軍選手の中で恐らく一番の金持ちであるミラベル選手が血を滲む勢いで練習しているのだから、『ペーペーの僕がこんな所でやめる訳にはいかない』という気持ちがあった。
「ミラベルさんは誰よりも凄い選手なのに、誰よりも努力するんですね」
ティーバッティングをしている彼女に向かって、チビが話しかけた。
「そんなの当たり前。人は努力できる時に努力しないと必ず後悔するから」
そう、老人になって悔やむのは遅すぎるのだ。若い時にもっと努力していれば、もっと成績が良くなったのにと悩みながらベットの病院で寝たきりになるのは御免だと言うのだ。確かにその通りだとチビは頷きながら聞いていた。
「そうですね。僕もミラベルさんと同じ意見です」
チビも努力を放棄して、遊びに出かけるのは嫌だと言うのだ。かつてプロ野球界にいた名将が人は無視・称賛・批判の三段階で評価されると説いていた。今、チビとミラベルは世間から無視をされている状態なのだ。だからどんなに努力しても人々の目に止まる事は無いが、それでも努力は技術向上のために必須条件だ。なので、誰からも褒められないとしても必死に素振りするしかないのだ。光を浴びない2軍選手は。
「私達は誰のために野球をやってる訳じゃない。自分のために野球をやってるの」
野球選手は皆そうだ。自分が納得するまで現役を貫いて、限界を感じた時に引退という選択肢を取る。ある意味、とても我が儘な職種なのだ。もしも会社員がここが潮時だと好き勝手に退職願を出していれば日本は終わるだろう。それぐらい、世間からかけ離れた存在なのだ。野球選手とは。




