035 スランプに感謝する
まずは感覚を整える必要があった。本能と理性のバランスを保つ事によって、人間は初めて正常な動きが出来るのだから当然と言えば当然だ。しかし、そう簡単に出来れば苦労しない。体が覚えた癖を排除するという事は並大抵の努力では不可能だ。常日頃から自分の癖を見つめ直して、もう二度とそんなプレーはやらないという気構えが必須条件となる。しかも、絶対に癖が治るという保証は何処にもないので、そういった不安で夜眠れないとか、寝たのに朝の4時頃に目が覚めてしまってそれから眠れなくなるといった症状が出てしまう筈だ。人は誰しも不安を抱えており、その不安がガソリンとなって仕事を頑張ろうという気持ちも生まれる。だが不安ばかり抱いては精神状態をきたす可能性があるので要注意だ。特に野球選手は精神状態が物を言う職業なので、メンタルを調整しないと体が自由に動かなくなるだろう。
チビはこれからそういった不安と闘っていかなくてはならない。いくら精神が強かろうと、不安からは決して逃れられない。だから誰しもが不安を抱えていきている。大きさは違うだろうが、皆同じ人間だから考える事も大体一緒だ。しかも何故不安に思うのか明確な理由を知っている。幸福な時は幸福の理由など『なんとなく』しか分からないのに、不安の理由はハッキリ分かる。だからこそ、多少悩み事がある方が頭は正常に働いて、質のある生活を過ごせる。幸福ばかりでは頭が怠けてしまい、本当に楽しい人生とは言えない。
だからある意味では、スランプの時こそ人は人でいられるのかもしれない。不安という衝動に駆られる事で初めて自分を見つめ直す事が出来るし、スランプだからこそ選手としても人間としてもワンステップ上の自分になれる。
スランプに陥った時は『自分を見つめ直す時間を与えてくれてありがとう』と自分の心と体に感謝する。それが精神的にも一番楽な方法だろう。




