034 将来の不安
どうすれば体と脳の考え方を一致させるか、チビの最大なる課題だった。いくら脳が打てると言っていても、体が無理だと判断すればバットは止まってしまうし、その逆も然りだ。この二つの思考が一致しなければ、到底ヒットを重ねる事は不可能である。チビが崇拝してやまないAKIRAという選手でさえも、このズレには苦労させられた。それだけ、皆が体験するスランプには違いないのだがこれが原因で引退する選手は大勢いいる。無論、これは技術的な問題ではなく精神の問題だ。明確な答えなど出る筈もなく、何をどうすれば思考を一致出来るのか答えは人それぞれだ。なので、他者がどうこう言おうと関係なく、むしろ内なる自分の言葉に問いかけるのが大事だ。
帰宅後。チビはベットの上に寝転がって溜め息を吐いていた。これからどうしようという絶望感と、終わりの見えないスランプ地獄に気が滅入っていた。本当に次の試合からヒットが打てるのか疑問であり、不安でもあった。
蛍光灯の眩しさが目に染みる。目に見えぬ不安に押しつぶされそうになり、うっすらと涙を浮かべていた。男が泣くのは葬式と、子供の結婚式の時だけと決まっているのだが。
しかし、スランプの理由が判明したという事は少なくとも朗報であった。なぜならば理由が分からなければ解決方法の糸口すら見つからないという最悪の状況を作りだしてしまう恐れがあるからだ。それが無いというだけまだ幾分もマシである。
「これからどうしよう」
不安で心がどうにかなってしまいそうだ。誰もが、今まで当たり前に出来ていた事が急に出来なくなると将来的な不安が頭に過ってしまう。これから先、自分はまともに生きていけるのだろうかという見えない恐怖。スランプを脱するまで、人はそれと闘っていかなくてはならない。




