033 自覚症状が全く無いストレス
打撃の感覚が狂うと、どんなに偉大なバッターでも凡打を繰り替えしてしまうそれこそチビが崇拝してやまないAKIRAでさえも打撃の感覚が狂って調子を落とした事が何度もある程だ。なので、これ自体はおかしな話しではない。むしろ野球経験者ならば誰でも感じた事のある衝動だろう。脳は打てると信号を発しているにも関わらず、体は打てないと言っている。両者の意見の食い違いによって結局凡打や三振をしてしまうのだ。やはり理性と本能を均等にしてやらないと、スポーツで大成する事は出来ないのである。
「ってことは、技術的なスランプでは無いという事なの?」
チビは首を傾げながら問うていた。
「そうだね。これは技術というよりもむしろ精神的なスランプだね」
精神面では異常な強さを誇るチビでさえも、知らぬ内に精神的スランプに陥っているというのだ。これには本人も驚いた様子で目をパチクリと開けていた。
「うそ……。でも、ストレスなんて全く感じてないよ」
「パコ君はなんで過労死する人がいるか知ってるかい?」
「え」
突然の問いにチビは言葉を失ってしまった。過労死と今の自分に何が関係あるのか、さっぱり分からなかったからだ。すると、そんなチビを見かねたのかパコは頷きながら説明を始めていた。
「本人も知らない内にストレスが溜まって、死ぬまで気づかなかったからだよ」
そうなのだ。精神的ストレスの厄介なところは目に見えないという所にある。もしも怪我をしたなら痛みを伴うが、ストレスに至っては痛みなど感じない。特に苦痛を糧として生きてきたチビにとって、ストレスをストレスだと認識出来ないでいたのだ。これぐらいは普通だと思い込む事によって自然と脳と体の感覚がズレていく。これには誰にでもあるスランプの一種だが、放っておくと先程パコが言っていたように過労死に繋がるかもしれないので、注意が必要なのであった。
「ストレスって、本人も気づかないものなの?」
「そうだよ。もしも、朝に布団から出たくないという衝動に駆られたら要注意だね。ストレスが知らない内に溜まっている証拠だから」
「う……心当たりがある」
チビは猫耳をパタンと閉めて、体も俯きがちになったのだった。




