027 焦り
AKIRAこそが最強のバッターである事は重々承知されるべき事実だとしても、それに屈することなく、チビもチビ自身もヒットやホームランを量産し続けなければならない。なぜならば成績が良くないと1軍には上げて貰えないし、それどころか万年2軍漬けで解雇されるという恐れもある。それだけはあってはならないし、してはいけない。1軍経験の無い者が解雇されてしまった日にはそれこそ再就職先など見つからない。実家が店を経営しているのなら話しは別だが、実際2軍選手の行く先は独立リーグくらいか。独立リーグの給料などお話しにならないのは周知の事実であり、アルバイトでもしないと生活できる金など有りもしない。
しばしば、チビはこのような現実的な考えをするようになっていた。最初の1年は2軍暮らしでも問題ないかもしれないが、2年目、3年目も2軍暮らしとなればそれはそれは悲惨な事である。1軍で活躍している選手も怪我に悩まされて、2軍に落とされるといのはある。その時の代わりとしても1軍に呼ばれないという事を意味するので、それだけはあってはならないと心に決めていた。
「ミラベルちゃんの心配をするのはいいけど、もうちょっと自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
そう話しを振ってきたのは監督自身だ。かれは2軍監督でありながらも、それなりに成績を残した人物である。郁々は1軍監督に昇格するのも夢ではないと自他共に認めているような男だ。
「はい……そうですね」
今、それを考えている最中にそれを言われたのでチビはなんとも言えない気持ちになった。もしもチビが思春期の少年ならば「分かってる!」と言って逆切れするところだったかもしれないが、生憎ここは勝負の世界。監督に口出しするのは愚かな事であり、非常識のレッテルを張られるだけだ。それ故に、チビは無難な言葉を口にしていた。
「お前もそろそろ1軍に通用するような打撃力を身に着けてくれよ」
監督はそうだと苦言するのだった。




