024 ゴリラと比べられる人間
バントを無事に成功させたチビはベンチに戻って、試合模様を観戦していた。送りバントであるが、仕事観を確かに感じていた。
「ナイスバント。おいらには出来ない芸当なんだな」
そう言いながら、ゴリスケが巨体を揺らしながらこちらに近づいてきた。まるで丸太のような腕をしていて頭も抜群にデカい。座高だけでチビの身長を抜きそうな勢いである。
「そう言えば、ゴリスケ君はバントが苦手だったね」
「苦手なんてものじゃないんだな。もう絶対に出来ないんだな」
ゴリスケは唯一無二のパワーヒッターである変わりに、細かい事を苦手としていた。足もそこまで速い訳でもなく、守備に至っては怠慢かと思われぐらい酷い有り様をさらしている。そんな事をすればお客さんから愛想をつかれるのは当たり前であり、ゴリスケの守備機会だけ球団ファンからもブーイングが来るぐらいだ。ハッキリ言って、そこらの中学生よりも捕球技術は無い。
その逆に、チビはとても器用に守備をこなしている。もはや守備と走塁面は1軍クラスであるため、打撃さえよければそく1軍出場も夢ではない地点まで来ている。
もう一歩。
もう一歩なのだが、その一歩が遥か先だ。どんなに努力してもなぜかバッティングだけは向上しないのでチビ自身も途方に暮れてしまっている。
「バントなんて簡単だよ。それよりも僕はゴリスケ君のパワーに憧れちゃうな」
「なんか……照れるんだな」
ゴリスケは顔を赤面させながら後頭部を掻いていた。この動作は恥ずかしいのと嬉しいのとが入り混じった時にする感覚である、
「正直言って、ホームランの飛距離はAKIRAに匹敵するよ」
たかが人間が霊長類の王と比べられるのは異次元的だ。それぐらい、彼は擬人化された選手とも遜色の無いパワーを秘めていたという事である。
「あのAKIRAとオイラが、似ている?」
「少なくともホームランの飛距離はね」
「それは猛烈に嬉しいんだな」
ゴリスケは赤面しながらそう言うのだった。
 




