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002  1軍を目指して


 野球は人間がするスポーツだというのはもう100年も前の話しだ。今では獣の遺伝子を持った擬人化達が活躍するリーグに姿を変えた。根本的なルールは100年前となんら変わっていない。クライマックスシリーズもあれば日本シリーズもあり、日米野球もある。変更点はただ一つ。擬人化された動物がプレーするというだけだ。


 それにより、プロ野球のストレート平均球速は156キロにまで跳ねあがった。驚異的な身体能力を持つ彼らにとっては、これぐらいは当たり前で、クローザーともなれば200キロ近い速球を投げる選手も稀にだがいる。


 ここまで投球技術が上がれば、打撃技術も上がるのは当たり前だ。170メートル級の特大ホームラン放つ4番打者が急増し、ホームラン数も60本がホームラン王の平均基準にまでなっている。


 そんなプロ野球リーグに所属しているのがチビという少年だ。彼は体も小さければ筋力も無い。足が速いのでどちらかと言えば内野安打狙いの打撃スタイルだ。しかし、内野には強肩の野手がゴロゴロといるので、たとえ猫の足を持ってしてもアウトになる確率は非常に高い。


 だから苦悩しているのだ。まだプロ野球歴一年目なのでどうとでもなると斜に構えているのでは遅い。一年目からレギュラークラスになるぐらいの気構えじゃないとダメだと、本で教わった。その本には、かつて阪海ワイルドダックスに所属していたAKIRAという伝説の選手がインタビューで明かした哲学が書かれているのだ。


 阪海ワイルドダックスとは、チビが所属しているアルファ・ダックスの前任球団で、AKIRAという人物はそこに所属していた。チビはその選手の考え方に賛同しており、彼が残した言葉を本として大事に保管している程である。


「何の本を読んでいるの?」


 と、ミラベルが不思議そうな顔で覗いてきた。これから試合が始まるのでチビはベンチに座って本を読んでいたのだ。


「これは……あ、その」


 チビは恥ずかしくなり赤面しながら猫耳をパタリと閉めた。なんせ自分のような2軍選手が、あの伝説のバッターに憧れているという事実がたまらなく恥ずかしくさせる。


「どうしたの?」


 だが、嘘はつきたくない。


「AKIRAの本です」


 意を決して、彼の名前を出した。既に、AKIRAは亡くなっていて過去の選手だがそれでも抜群の知名度がある。それは、あのベーブルースと肩を並べる程なのだ。教科書にも平然と載っており、『21世紀最高の5ツールプレイヤー』と書かれている。


「あの人ね! 私も好きよ」


「え……そうなんですか」


 予想外の答えに、チビはビックリして閉ざしていた猫耳を開かせる。


「あの圧倒的な生涯成績は野球人として憧れちゃうもの」


 2000本安打を達成したミラベルですら、彼の残した生涯成績には遠く及ばない。だが、近づくことは出来る。


「僕も恥ずかしながら、彼が大好きです」


「そうね。AKIRAのように走攻守そろった選手になりたいな」


「ミラベルさんも凄いじゃないですか」


「でも、今の私は貴方と同じ2軍選手よ」


「いえいえ。いずれはもっと上に行けますよ!」


 上というのは1軍の事だ。チビの目指す場所でもある。


「ありがとう。まずは目の前の試合を確実にこなさないとね」


「はい」


 こうして、2人は共に1軍に上がる事を決意したのだった。



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