015 復活の兆し
ミラベルは2000本安打を達成した伝説の名選手だ。しかし、そんな彼女が何故トレードされたあげく、2軍暮らしを余儀なくされているのか、チビは事情を知っている。それはとても単純な理由であり、もっともファンが悲しむ理由だった。
それは選手として衰えた事だ。衰える事は選手として必然とされていて、誰一人として衰えぬまま現役を全うした選手はいない。誰もが打てない、ボールが前に飛ばないという屈辱を感じながら晩年をプレイする。
チビが憧れてやまないAKIRAも、晩年は衰えを隠しきれない状態で闘っていた。それでも、彼らベテランという選手は現役にこだわる。自分はまだやれるという自信があり、それはやがて確信となる。だから偉大な記録を残した選手が、独立リーグでプレーを続けるというのは良くある話しだ。客を呼ぼうと必死な独立リーグの球団と、プレーをしたくて仕方ない彼らの意志が通じ、入団が決定する。
チビはそんな彼らの行動がたまらなく好きだった。どんなに金を手に入れようが名声を手に入れようが、彼らは『野球がやりたい』という一心の元にプレーを続ける。それこそ給料も安くて人気が皆無の球団でも、自分が必要とされるなら喜んで行く。それぐらい野球熱の高い選手を憧れていると言っても過言ではない。
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「ミラベルさん。最近調子がいいですね」
そうなのだ。ミラベルはここ最近ヒットを重ねて打率を3割台にキープしている。全盛期のスイングは見られないとしても。彼女の美しいヒットが見れるだけでチビは満足だった。彼女のヒットを打つ様は、まるで白鳥のように美しくダンスを踊っているようだ。こんなにも優雅な打ち方をするのはミラベルを含めて二人しかしらない
もう一人は言うまでもないが。
「そうかな?」
微笑みながら、首を傾げてきた。これにはチビも胸にドキッときて猫耳をピクピクと痙攣せざる終えない。それぐらい彼女の笑顔はキュートなのだ。
「そうですよ。ヒットもファインプレーも連発じゃないですか!」
チビは目を輝かせながら、そう言うのだった。