012 果てしない夢
「僕は22世紀最高の5ツールプレイヤーになりたい。それが夢だよ」
マタタビを両手に持ったまま、目をキラキラと輝かせて、そう語っていた。
「そうか。だったら活躍して1軍に行かないとな」
「お互いに切羽琢磨して頑張ろうね」
「そうだな」
パコも頑張ると言うのだった。
「ところで、パコ君はどうして野球選手になろうと思ったの?」
「昔の選手に憧れたからさ。彼は圧倒的な怪力を持ちながらも打率も残して、守備も上手い。非の打ちどころがない選手だった」
「そ、それってもしかして?」
チビには覚えがあった。
「AKIRAだ」
「やっぱり……パコ君もAKIRAさんが好きなんだね!」
そう、彼は21世紀の選手だが現代野球でも十分通用するとまで言われる才能の塊だ。今の野球界は人間では到底活躍出来ないという風潮が流れているが、もしもAKIRAのような身体能力を持っている人間がいれば通用するだろうというのが学者達の見解だ。それぐらい、AKIRAという選手は全てにおいて完璧な選手だったのだ。
それ故に現代っ子にも大人気の選手である。普通ならば亡くなった選手は過去として語られるのが当たり前だが、AKIRAだけは違う。彼の残した数々の伝説は彼らにも受け継がれているからだ。
「あの人がこの時代に生まれていたとしても、絶対に活躍していた。ホームラン30本は確実に打てるだろうさ」
たかが人間が今の野球リーグで30本も打てるのは有りえない。どんなに優れた選手でも人間ならば一年に一回ホームランが打てれば及第点と言ったぐらいか。それだけ野球の質は向上している。それでもAKIRAがこの世界に生きていれば30本は余裕で打てるというのだ。
「僕もそう思う。彼の動画を見ていたら、他の選手が中学生に見えたもん!」
「俺達もいつか、あの人のように何本もホームランを打ってファンを沸かす選手になりたいものだな」
パコはそうだと言うのだった。