011 チビの夢
マタタビこそ猫の全てだというの言うまでもない。それは擬人化した猫でも一緒である。チビはマタタビを両手で掴んでクンクンと鼻を近づけて嗅いでいる。それぐらい中毒性があってたまらないのだ。
「最近調子がいいみたいだが、なんかあったのか?」
と、パコが聞いてくる。
「規則正しい生活が今の僕を支えてるよ。練習練習って血眼になってた時よりも体の調子がいいし、成績も上がってるんだ」
「そうだな……野球選手は体の調整が重要だから寝不足や不規則な生活は大敵だ」
そこまでだと言うのだ。寝不足からくる調整不足は。
「ミラベルさんとパコ君のおかげでようやく分かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。俺達チームメイトなんだからそれぐらい当然だって」
「おまけに、こんな魅力的なマタタビもくれて」
チビは両手に持っているマタタビに目を輝かせている。それぐらい猫にとってのマタタビは人間にとっての御馳走のような物なのだ。特に彼のような最近まで猫だった存在はどうしてもマタタビの影響を濃く受けてしまう。それが悪いかと言ったら全然悪くは無いのだが。
「それはペットショップで安売りしてたから買っただけだからな」
「そうだね。マタタビはちょっと高いからね」
「本当だぜ。マタタビ一個買うだけでカリカリ袋一個は余裕で買えるぞ」
そこまでマタタビは高いというのだ。
「僕みたいな貧乏人には中々買えない代物だよ」
「何言ってんだ。これからお互い頑張ればマタタビなんていくらでも買えるぐらいの金が転がってくるぞ」
「でも、そのためには1軍に上がらないと」
「俺達なら大丈夫だ。きっと上がれる」
「その根拠は?」
「信じてるからだ」
パコは確かな目でそう言っていた。
「何を信じているの?」
「未来の自分を」
「未来の自分……」
「チビちゃんには明確な夢はないのか」
「あるよ」
「だったらその夢を信じればいいじゃないか?」
「うん……そうだね!」
チビの夢。それは22世紀最高の5ツールプレイヤーになる事だ。20世紀最高は鬼崎喜三郎、そして21世紀最高はAKIRA。二人共、チビにとっては憧れの存在に変わりない。自分も人々に憧れの目で見られるような選手になりたいと心の中で思っている。




