001 名選手との出会い
この世界とは違う別の世界では、獰猛な野獣や温厚な草食動物など、ありとあらゆる生物を擬人化出来る装置が開発されていた。その装置を使って人と化した獣達をスポーツで戦わせるという娯楽が、最近ブームとなっている。
その中でも非常に盛り上がっているのは野球だった。性別を問わずあらゆる人間の形をした獣が、豪快にホームランを打ったと思えば、今度はジャッカルの如くスピードでベースランをする。
あまりにも異次元級なので、観客たちも大喜びだ。こうして彼ら彼女らによる擬人化プロ野球は瞬く間に世界へと広がり、今では世界中で盛り上がりを見せているのだった。
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ここに例の装置で擬人化された選手がいる。名前はチビ。元々は野生の猫だったのだが、ひょんなことから研究所に紛れ込んで装置に侵入。そのまま人間と化して、今に至る。当然の如く猫の身体能力は人間よりも高い。だが、他の動物と比べるとひ弱なのは火を見るより明らかである。
こうしてチビは2軍暮らしを与儀なくされていた。しかも2軍と言えど屈強な元獣達が蹂躙している世界には違いない。そんな中で、チビは半ば居場所を失っていた。あまりにも平凡すぎて、何の取り柄もないのだ。身長も150センチ程度しかなく、それが原因で名前はチビ。先輩たちからパシリとして扱われていて、今日も近くのコンビニに買い出しに行っていた。
「はあ……憂鬱だな」
それがチビの口癖だった。先輩にコキ使われてまともな生活を送っていないのだから仕方ないかもしれないが。
自動ドアす開いて中に入ると、そこには見覚えのある選手が立ち読みしていた。あまりにも美貌な顔立ちなので後姿だけでもよく分かる。彼女の名前はミラベル。元々はヨークシャー・テリアの犬だったのだが、擬人化して選手となり2000本安打を達成した伝説の選手だ。そんな彼女は先日、トレードでチビが所属する球団に移ってきた。その理由は、打撃が劣化して使い物にならなくなったからだ。
しかしまだ守備は名手としての片鱗が残されていて、解雇される前にトレードが発生したという訳だ。
チビはそんな2000本安打達成者を目の前にして、言葉を失った。なんせ憧れの選手であることも勿論だが、明らかに格が違う。自分のような2軍選手が話してもいい存在ではないと瞬時に悟ったのだ。
「あれ、貴方は確かチビちゃん?」
すると、ミラベルが視線に気が付いたのか振り返ってきた。しかも2軍選手の自分を知っているのだから感激にも程がある
「ミ、ミ、ミ、ミ……ミラベルさん、どうして僕の名前を!」
「犬と猫って似てるから、つい覚えていたのよ」
そう。似たような種類だからこそ記憶に残っていたというのだ。
「感謝感激であります!」
思わず、右手を頭に上げて敬礼するチビだった。
「やめてよ。私も2軍スタートだからこれから仲よくしようね」
彼女が右手を出してきたので、チビもそれに答えるかのように右手を出し、握手を交わす。彼女の手は暖かくてとても柔らかかった。女性経験の無いチビにとって、それはとても刺激的な体験だった。