ホワイトデーと決心と
俺は今悩んでいる・・・
なぜなら・・・幼馴染を女性として好きと気づいたからだ。
それだけならまだいい・・・
問題は、その幼馴染にバレンタイン以降、避けられるようになってしまった事だ。
・・・整理してみよう。
事の起こりは先月の13日、後輩の女の子に告白されたのがきっかけだ。
始めてされた告白・・・そこは良い。
相手はかなり可愛くて、健康な男子なら舞い上がっても良いぐらいだ。
ただ、告白の場所がまずかった・・・
朝の校門前で、しかも隣には幼馴染のカスミが居た・・・
・・・すごく辛そうな顔してた・・・
そのくせ、無理にいつも通り振舞おうとして・・・
その時、俺は気づいた。
カスミの事が好きだって・・・
あの時の俺は、自分の気持ちが整理できず、逃げるように教室へ行ってしまった・・・
・・・・・・・・・・はぁ~・・・
あれはまずかった・・・よなぁ。
さらにその日も、次の日も理由を作ってカスミを避けてしまった・・・
幾ら何でもヘタレ過ぎだろう・・・俺。
ヘタレ過ぎるのもカスミに避けられる事になった原因だよなぁ・・・
それでも・・・なんとか自分の気持ちをはっきりと認識した以上、女の子には誠心誠意謝った。
そういえば、女の子は色んな事を言っていたな、
その時はカスミの事で頭がいっぱいだったから、いまいち覚えていないけど・・・
まぁ、そんなことは良い。
それよりも、その後だ!!
俺はカスミを探そうとした!!
勿論、告白するためにだ!!
偶然にもすぐに見つけることは出来た。
これは想いを伝えろって、神様の偶然かとも思ったが・・・
ヘタレな事に告白は出来なかった・・・
いや!!臆したんじゃない!!
カスミは俺の言葉を遮るようにまくし立て、私の気持ちだからって義理チョコを渡して逃げていったんだ!!
ただ・・・"いつもありがとう♡"ってメッセージ・・・どう好意的に取ろうとしても・・・義理・・・だよなぁ・・・
もしかしたらカスミも俺の事を・・・なんて虫のいい事がある訳は・・・無かった・・・
それから1ヶ月・・・
まず、毎朝迎えに来てくれていたカスミが来なくなった・・・
次に昼も一緒にとる事がなくなった・・・
昼は何処かで友達と食べているようだし、休み時間に会いに行くと友達に追い返される・・・
急に・・・距離を取られるようになってしまった・・・
「・・・・・・・・・はぁ~~~~
・・・・・・・・・参った・・・」
思わず弱音が口から出てしまう。
「どうした、椿?
とうとうカスミちゃんの居ない食事に耐えられなくなったか?」
俺のため息に反応したのは、親友の柾。
高校からの付き合いだけど、気の置けない親友だ。
いつもなら彼女と一緒にお昼をとっている・・・筈なのだが・・・先月から何故か俺に付きまとうようになった。
カスミに避けられてる俺を心配し、一緒にお昼を食うようになったんだろうな。
「そう言う訳じゃないけど・・・
・・・柾こそ、ずっと俺に付き合ってないで、彼女と一緒にお昼をとっていいんだぞ?」
「いやいやいや、ダチのお前が落ち込んでるんだ。
俺がお前をほって置く訳にはいかねぇだろ?」
やっぱりそうだったか。
見た目は軽薄そうなチャラい奴なんだけど、実際には人情に厚くて義理堅い良い奴なんだよな。
「それはありがとう・・・
だけど訂正しておく。
俺は落ち込んでない!
・・・ それはそうと、お前も1月近く彼女をほっておいて大丈夫なのか?」
「その点は心配するな。
あいつも手が離せない友人がいるらしくてな、そっちにかかりきりなんだよ。」
なんとまぁ・・・2人揃って面倒見の良い・・・
「なら、いいんだけど・・・。」
「だからぁ、早い所告白ッちまえって!!」
バンッ
「っゲホッ・・・」
いってぇ・・・背中を思いっきり叩かれた。
じゃなくっ!?
「なっ!?・・・なななななっ、何を言ってるんだ!」
俺はこいつにカスミを好きだと1度も相談したことはないはず!?
なんで知ってるんだ?
柾は頭に手を当ててめんどくさそうに言って来た。
「あのな・・・どう見てもバレバレだ。
カスミちゃんと話してる時の生き生きとした顔。いつも昼前になるとそわそわしてる所作。
それに、他の女に1度たりとも目を向けた事ないだろ?
おまけに会えなくなってからの廃れ具合。
ここまでの状況証拠が揃ってて、それでも否定するか?」
「そっ・・・それはっ!!」
「否定する前に!!たとえば・・・あそこの安西が加藤に向けてる視線については知ってるな?」
柾は窓際に並んで座っている安西(男)と加藤(女)を指差す。
確かあの2人は、少し前に付き合いだしたカップル・・・だよな?
「あぁ、勿論知ってるけど?」
柾は声を潜めて囁くように言って来る。
「あの2人が実際には付き合って無いことも?」
「・・・えっ!?」
思わずまじまじと見ようとしたところで柾に首を押さえられる。
「あまりジロジロと見ない。
あの2人に失礼だろ。」
「・・・って。
いつも2人一緒だし、仲良く昼も食ってる。どう見てもあの雰囲気は付き合っている空気だろ?」
「ああ、俺の知っている限りでは相思相愛だ。
だけど、お互いに好き合っていると気づいて無い。
それに断られたら今の関係が壊れると思って、告白できない状態のままらしい。」
「それは・・・勿体無いな・・・
お互いに好き合っているなら、さっさと、付き合えば良いのに。」
「・・・はぁ~~~~~~」
いきなり柾がひそひそ声を辞めて盛大なため息をつく。
「どうした?」
柾にならい、普通のボリュームに戻って柾に声を掛ける。
「お前って、・・・ほんっっっっっっと鈍いな。」
盛大なためを作って、カチンと来ることを力いっぱい言ってきた。
「こう見えても勉強は出来るし、運動も得意な方だが?」
売り言葉に買い言葉。憮然とした答えを返す。
「いや・・・そう言う鈍いじゃなく・・・
・・・まぁいいや、あの2人とお前等はどう見ても一緒って事だ。」
疲れた表情で言って来る。
・・・・・・うん?
あの2人と俺達が一緒?
それってつまり・・・
「もしかして、カスミも俺の事をもがっむぐっ・・・」
「声が大きい!!ボリュームを下げろ!
周りを考えろ!!」
つい、叫びかけたところを柾に塞がれた・・・
確かに恥ずかしいことを口走りそうになっていた・・・
とっさに口を塞いでくれた柾に感謝だ。
柾と目があったので頷く。
柾も頷くと手を離してくれた。
「カスミも・・・俺の事を好きなのか?」
今度はひそひそ声で尋ねる。
「俺には判らん。
だけど、周りからはあんな風に見えてるって事は認識した方がいいぞ?」
「・・・」
周りからはああ見える・・・か。
今まで意識してなかったけど、確かにそう言われればそうかもしれない・・・
だけど・・・
「でも・・・バレンタインに渡されたのは義理チョコだったぞ?」
「・・・はい?」
柾は俺の答えに豆鉄砲を食らったような、なんとも言えない表情になった。
毒を食らえば皿まで・・・
おとなしく全て相談しよう。
「珍しく・・・俺への気持ちってチョコを渡してくれたんだ。
期待したんだけどさ・・・"いつもありがとう♡"って書いてあったんだ・・・どう考えても・・・義理・・・だよな?」
柾はたっぷりと10秒は沈黙した後、笑いをこらえるようにゆがんだ口を抑えて同意してきた。
「確かに、どう考えても義理だよな。
そうか・・・そう言う事か・・・ぶっ。」
ちくしょう!!吹き出しやがった。
「ああ、そうだよ!!
・・・・はぁ、あやうくお前に乗せられる所だったんだよ・・・」
「いや、そうかそうか・・・ぶっ・・・あぁ、ごめんな本当に。
でも・・・ぶふっ・・・なるほど。いや、椿の事を笑ってる訳じゃない。
やっと納得がいっただけなんだ・・・。」
・・・はぁ・・・まったく・・・
こいつは人の事を貶めて笑うやつじゃ無いから、その通りなんだろうけど・・・笑い上戸だからってここまで笑うか?
今のやりとりで、この状態に持っていかれたってのは・・・怒ってもいいよな?
「で?なんの納得がいったんだ?」
「ぶふっ・・・ごっ・・・ごめん。
それだけは絶対に言えない。
でも、全部終わったらきちんと話すから・・・」
怒りを込めて言ったんだが、全く伝わってない・・・はぁ。
「うん。絶対に告白するべきだ!!」
笑いがとまると、柾は真剣に言ってきた。
「いきなり何を・・・」
「いきなりじゃない。さっきから言っているだろう?」
「いや、だからあいつの気持ちは「カスミちゃんの気持ちはそうだとしても、椿の気持ちは決まってるんだろう?」・・・そうだけど・・・。」
「なら、男らしく告白するべきだって。」
いつになく柾は強固に迫ってくる。
「でも断られたら、今の「どうせここ1ヶ月、まともに顔も合わせてないんだ!!なら、今以上に悪くなることはないって!!」・・・そうなんだよなぁ・・・」
痛いところをついて来る。
それに、柾にしては珍しく引く気配がない。
「ちょうど明日はホワイトデーだ。
男なら、決める時は決めてしまえ!」
バシッ
景気よく背中が叩かれる。
「っつう~・・・」
「いつもの椿なら、そんなにまごまごしていない!!
俺の知ってる椿はどんなことでも真っ直ぐに向き合ってたはずだ!!
違うか!?」
柾は真剣そのものだ、けっして茶化しているわけでも、煽っているでもない。
「あのな・・・」
『他人事だと思って。』と言いそうになったが、なんとか飲み込む。
ここまで真剣に、強固な柾は初めてだ。
・・・何が原因かしっかり判っているわけじゃない。
でも、今のままカスミと離れて行くのは・・・嫌だ。
・・・なら・・・
・・・告白して駄目だったとしても・・・今のまま離れて行くよりはずっと良い・・・か。
柾にのせられるようで少しシャクだけど・・・
「・・・もし駄目だったら、盛大に慰めて貰うからな。」
「上手く行ったら報告してくれよ。」
答えにならない答えを返してくる。
・・・はぁ~~~~~~~。
でも、吹っ切れた気がする。
明日・・・決戦だ。
ーーーーーーーー
3月14日、ホワイトデー
朝1番でカスミの教室へと向かった。
「どのようなご用件でしょうか?」
小柄で可憐、という形容詞が良く似合う少女が出迎えてくれた。
カスミの友達で楓さんと言ったか?
「カスミに用事があるんだけど、取り次いでもらえないかな?」
いつもここで、『カスミは会いたくなさそうなので、お引き取り下さい。』と、にっこり帰るように言われるんだけど・・・今日だけは引けない。
「少々お待ち下さい。
カスミに聞いてきますので。」
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。
1ヶ月ずっと通ったけど、初めて取り次いでもらった。
「何か?」
柔らかく微笑んで振り向かれた。
いや、機嫌を悪くさせるわけにいかない。
「いや、何でも。」
「・・・そうですか?
・・・少々お待ち下さいね。」
何か言いたそうだったけど、あっちも飲んでくれたようだ・・・助かった。
楓さんとカスミが何かやり取りしているのが見える。
カスミが首を振ってるようだ・・・
楓さんはなおも話しかけてるみたいだけど・・・
・・・首を振ってるな・・・
カスミの隣に座っていた少女・・・桜さんも立ち上がって話をしてる。
2人とも首を振ってこっちに戻って来る。
・・・雰囲気的にダメそうか?
2人揃って俺の前に来た。
ゴクッ・・・
桜さんが困った顔で、言いづらそうに口を開く。
「悪いね。・・・何というか、言いにくいんだけど・・・」
「義理のお返しなら要らないそうですわ。」
楓さんがすっぱりと言う。
"義理"と言う単語がザックリと胸に刺さる・・・
丁寧な物腰なのに結構な毒舌家で・・・
「楓っ、そうはっきりと・・・」
「必要な事です。」
「そうなんだけどさ・・・」
ショックを受けている間も、2人の声が聞こえてくる。
「・・・そっ」
折れそうになる気持ちを立て直し、なんとか言葉を出す。
「それでも俺はカスミに伝え・・・、いや、渡したい物があるんだ。
なんとか時間を取ることは出来ないかっ!?」
なんとか言えた・・・
すると、楓さんと、桜さんは俺の言葉に満面の笑みをたたえる。
「よく言った!
放課後に必ず連れて行ってやる。
中庭で待ってな。」
「頑張ってくださいね。」
バシッ
パシッ
桜さんが右肩、楓さんが左肩を叩き、そのまま方向転換させられる。
「そう言う訳で、今は帰った帰った。」
「そう言う事です。」
今は帰れとばかりに押してくる。
「ありがとう・・・」
俺はそれだけ言うと、押し出されるように自分の教室へと向かった。
ーーーーーーーーー
放課後
「きっちり伝えて来いっ」
バシッ
柾に背中を叩かれる。
放課後の事とか言ってなかったはずだけど・・・相変わらず恐ろしい情報収集力だけど・・・まぁいい。
こいつには散々世話になったしな。
「あぁ、派手に散ってくるさ。」
笑って返せたか?緊張で顔が強張ってる気がして上手く返せたか自身がないが・・・
柾の方はいい笑顔だ・・・他人事だからって良い気なものだ・・・
サムズアップしてるけど返す気力は無い・・・後ろ手に手でも振っておこう。
ーーーーーーーーー
中庭に着くとカスミが立っていた。
「悪い、待たせた・・・」
小走りに駆けて行くと、カスミは困った顔をした後、首を振り、
「大丈夫、椿を待つのは何時ものことだから。」
いつも通りの顔で、いつも通りに返してくれた。
・・・それだけなのに、何故か胸が苦しくなる。
意識してしまったからだろうか・・・何というか、凄く眩しい・・・
「どうしたの?」
カスミが心配そうに俺を見る。
っつ・・・近い近い・・・
このぐらいの距離、普通だったはずなんだけど・・・なんというか・・・照れる。
「あっ・・・」
思わず離れると、カスミの方から切なそうな声が漏れる。
えっ!?っと思ってカスミを見ると目があってしまった・・・
そのまま何も言えなくなってしまう。
カスミも俺を見たまま黙り込んでしまった・・・
・・・って、駄目だダメだ。
「カスミっ!!」
上ずった声が出たけど、気にしてはいられない。
「ひゃっ・・・はい!」
この間は説明しようとして失敗した・・・なら、行動あるのみだ!
「受け取ってくれ!!」
隠し持っていた小箱を差し出す。
カスミはためらいつつも小箱を手に・・・
「ごめん・・・受け取れない。」
取らずに、俺の手を押し返した・・・
・・・駄目・・・だったのか?
足の力が抜け、地面にへたり込んでしまう。
「椿、どうしたの?大丈夫!?」
カスミが駆け寄ってくる。
「いや・・・大丈夫・・・気にしないでくれ・・・」
「でも、顔が真っ青だよ?
本当にどうしたの?」
最初の緊張など吹き飛んだかのように、カスミは俺を介抱しようとする。
「本当・・・気にしないでくれ。」
「でもっ!!」
「お前の気持ちは判ったから・・・それだけで十分だから・・・」
もう、諦めるから・・・そう続ける事だけは出来なかった・・・
気合を入れて立ち上がり、よろよろと教室へ戻ろうとする。
「良かった・・・それじゃ、今まで通りに接しても・・・良いかな?」
カスミはカスミで、ほっとしたように言ってくる。
今まで通り・・・俺は今まで通りにカスミに接することが出来るのかな・・・
目頭に熱いものが湧いてくる・・・
「義理のお返しなんてされたら、以前のように椿の顔見れなくなる所だったし・・・」
・・・・・・・・・え?
「・・・は無理でも、・・・は・・・で・・・大丈夫・・・よね?」
聞き取れるかギリギリの、かすかな言葉でカスミがブツブツと言っている。
・・・もしかして?
振り向いてもう一度カスミの顔を見る。
「きゃっ!?」
急に振り返ると思ってなかったのだろう。
カスミが俺の顔を見て驚く。
「カスミっ!これは義理のお返しじゃない!俺の・・・気持ちだっ!!」
改めて小箱をカスミに突き出す。
「えっ?」
戸惑いつつ、小箱に手を出すかどうか迷っているようだ。
・・・南無三!
リボンをほどいて、小箱を開けて見せる。
「・・・あっ」
中に入っているのはピンクゴールドの飾り気の無いリング。
以前、店頭のショーケースを見ながら30分は微動だにせず、眺めていた物だ。
・・・預金残高が悲しいことになったけど、ケジメをつけるためにも頑張った!
「受け取って・・・欲しい。」
これも突っ返されたら・・・
そんな恐怖が頭をよぎる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・反応が無い。
おそるおそるカスミの方を見る。
「・・・」
絶句した・・・
何故なら、あのカスミがボロボロ泣いて居たからだ・・・
そんなに嫌だったのか!?
・・・嘘・・・だろ?
「そっ・・・そんなに・・・嫌だったか?」
震える手で小箱を閉めようとする。
「待ってっ!」
その手を凄い勢いでカスミに掴まれた。
「嫌じゃない!絶対に嫌じゃない!」
凄い勢いで首を振る。
とは思えば、今度は神妙な顔で言ってきた。
「本当に・・・いいの?」
今度こそ理解してくれたか?
そして、受け取ってくれるのか?
「勿論だ。」
カラカラの喉で、やっとそれだけ言う。
カスミの手はゆっくりと小箱に伸び、リングを大切そうに取り出す。
「なら、私の答えは・・・これ。」
カスミは微笑んで左手の薬指にリングをつける。
サイズとかよく分からないから適当に買ったんだけど・・・ピッタリだ。
・・・って事は?
・・・えっ!?
・・・・・・っええっ!?
「私も言えなかったんだけど・・・椿の事が好きです。」
はにかんで、カスミが応えてくれる。
綺麗だ・・・
その笑顔に見とれてしまう。
「椿は・・・言ってくれないの?」
拗ねたように俺を見上げる。
そんなカスミを見て、思わず抱きしめてしまう。
「きゃっ!?いきなり何を!?」
腕の中でカスミがもがくけど力は緩めない。
カスミの耳元に口を寄せると、精一杯の勇気を込めて伝える。
「俺は・・・カスミを愛してる。」