リクエスト版 後日談
刑が 決まるまで
収容される
拘置所
ドラマで 見る
檻の中とは
まるで
イメージが 違う
外部と遮断された
四角い窓 以外
拘置所で 居る事に
不自由は
感じなかった
鉄条の扉で
仕切られた
個室
小さなテレビまで
完備してある
ただ
禁じられたまま
横たわらずに
微かに流れる
雲の動きを
眺めていた
背中越しに
鍵の開く音が
響き渡り
ドアが 開く
『釈放』を
告げる声に
重い腰を
上げる
待ち望んだ
『釈放』が
これほど
気が 重い事は
ない
『釈放』の意味は
五十嵐『逮捕』と
すり替えられた
だけに
過ぎないからだ
正直
溜息すら
出なかった
事務的な
手続きが
終わり
タグの付いた
所持品が
確認の為に
机に 並べられる
やはり
そこには
チョコレートの
包み紙は なかった
聡美との
数時間が
幻と化す
不思議な事に
聡美の顔さえ
はっきり
覚えていない
覚えているのは
『聡美』と言う
偽名だけだった
署内の図面に
印された
駐車場の中に
保管されている
車の場所を
教えられ
簡単な説明を
受け
付き添われた
警察官と
警察署を出た
娑婆の空気と
酸素を吸い込むより
眩しい陽射しに
うんざりする
これから
腐る程
汚い世界で
生き曝し続けるしか
ないのだろう
何もかも
失った現実の中で
俺に残された
唯一の車だけが
主を 待ち続け
佇んでいる
パール色の
ボディを 撫で
少し心が晴れるのを
感じた
埃を 被る
愛車が
愛おしく思う
そうだな
まずは
洗車でも
してみよう
そんな事を
胸に抱く
そうして
少しづつ
社会に 対応して
行けば
いいのかも
知れない
時間は 限りなく
続いてゆくのだから
車に 乗り込み
返された
携帯電話を
充電器に 繋ぐ
誰から
掛かってくる訳でも
ないのに
習慣とは
恐ろしいものだ
エンジンを掛け
煙草を くわえる
点きの悪い
ライターを 振り
小さく燃える炎に
煙草の先を
近づけた
車内に 広がる
ヤニの匂い
吸い込むニコチン
『釈放』された事を
実感として
ようやく
脳で理解出来た
瞬間だった
突然
携帯電話が
鳴り始め
躊躇しながら
携帯電話を
開いた
着信名
《真由美》
携帯電話を
持ったまま
硬直する
何故 妻から
電話が 鳴るんだ
恐る恐る
携帯のボタンを
押し
耳にあてると
聞き慣れた
電話越しの
妻の声が する
『パパ?』
優しく囁き
いつもと変わらず
俺を 呼ぶ
妻の声に
涙が 零れた
妻から
証拠品として
携帯電話を
警察に
押収されていた
事実を 聞く
両親の薦めで
子供達を 連れ
遠い親戚の家に
避難した事も
聞かされた
唯一 心に留まる
殺害当日の
アリバイ消滅の為に
呼び出された
理由を 訪ねると
妻宛てに
葉書が 届いたと
言う
『ランドセル
一日限定
特別ご招待状』
多分 五十嵐から
送られた
偽造の葉書だろう
五十嵐は
覚えていたんだ
娘が 小学校に
上がる事を
そして
俺達 家族が
どんな暮らしを
している事も
知っていたのだろう
『パパ?』
『ん?』
『お父さんがね
一緒に暮らさないかって
言ってくれてるの
子供達も
パパの帰り
楽しみに 待ってるわ』
『一緒に 暮らそう』
≡END≡




