温情
無音の部屋
聡美を
抱き抱えたまま
時間だけが
過ぎてゆく
顎を かすめる
聡美の髪から
石鹸の匂いが
する
シャツを
握り絞めていた
聡美の手が
力なく
滑り落ち
掬い上げように
聡美の手を
掴む
そして
どちらからともなく
唇を 重ねていた
人の温もりを
確認するように
身体を 重ね
性欲を
満たす為では
なく
互いの存在を
認めるような
寂しさだけを
絡ませて
ただ
縺れ合う
聡美の漏らす
喘ぎ声が
賛美歌を口ずさむ
少女のように
哀しく
静かに
奏でた
人肌に
触れるのは
何ヶ月ぶりだろう
……半年…
…いや
一年以上
経っているだろう
人肌の感触も
体温も
忘れかけている
それは
聡美も
同じだろう
新たな恋もせず
帰らぬ男を
ひとりきりで
待ち続けて
いたのだから
どれほど
屈辱と侮辱に
苛まれ
待ち侘びたのだろうか
濡れたまま
拭いもせず
横たわる聡美の
背中が
折れそうなほど
か細く
弱々しく
映る
包み込むように
聡美の背中に
胸を あて
抱き寄せると
聡美は
小さな背中を
微かに丸め
擦り寄せて
くる
互いの
傷口を
重ね合わせ
痛みを
調和させながら
目を閉じると
ゆっくりと
眠りの中へ
堕ちていった
結婚して
7年
浮気を
した事は
ない
家庭に 不満が
なかったからだ
賃貸のアパートで
家族四人
身を寄せ合い
暮らしてきた
妻の手料理を
囲み
途切れる事なく
言葉が 飛び交う
和やかな夕食が
ささやかな
幸せだった
贅沢な暮らしとは
言い切れないが
微々たる額の
貯金も 出来ていた
幼い子供達の
成長の記録を
デジカメに
写し取り
成長を
願いながら
それでいて
いつまでも
小さな子供のままで
いて欲しいと
思ったりもした
失う事で
空洞になる心を
埋めるものが
人肌の温もりと
気付く
人間とは
愚かな
生き物だ
そして
愚かだからこそ
求め合うのかも
しれない




